逆転 | ナノ

龍ノ介と亜双義

 姿見に映った自分はひどく情けない色をしていた。せめてこいつくらい眉目秀麗であればと少し思ったが、こればっかりはなんとも。表情に似合わない赤を額に掲げれば、親友からは一拍おいてこんな言葉が飛び出した。
「……馬子にも衣装といったところか」
「いやあ。普通ハチマキがあんなにサマになる人間なんていないと思う」
 笑いを含んだ皮肉をするりとかわし(実は少し傷ついた)、赤色は狩魔に括り付けようと決心した。親友以外にまでダメ出しされたら流石のぼくでもそのまま町へ繰り出したりはできない。亜双義に比べてお洒落なんて本当によくわからない人間だから、せめて普通の格好で、それなりに見えていればそれでいい。寿沙都さんがぼくと一緒に歩いていて恥をかかない程度といったところだろうか。彼女、とてもお洒落だから。今度洋服の一着でも見繕ってもらおうかしら。と足掻くように口にすると、「それがいい」と促される。
 しっかりとした革のベルトを自分の腰回りに調節する。ズッシリと重いそれは、弁護士として抱えてきた責任の重さのようにも感じる。なんて夢見たコトを正直に言えば軽い調子で笑い飛ばされてしまうのだろうな。
それにしても亜双義。ベルトってややこしいんだな。
「なにをしている、貸せ」
「ああ、ごめん。こういうの慣れてなくて」
 なにせ浴衣の帯すらも未だにアヤしいのだもの。亜双義のベルトを見てこれならばと思っていたけど、見た目よりも難解だった。
 慣れた手つきでみるみるうちにぼくの腰に巻き付いたそれは、やっぱり不釣り合いだった。
「…これは」
「なにも言うな友よ」
 きっと亜双義も姿見に映し出された残念なモノを見て、ぼくと同じコトを思っていたに違いない。馬子にも衣装。少し違うような気もするけれど、一番近い表現としては正解だと思う。
 さて次は左の上腕に輝いていたアレだ。そいつは右腕に装着する。ぼくの腕よりも一周り大きいところにあった結び目を解いた時、内側には何度も呼んだあの五文字が縫い付けられていた。これからぼくはこいつを背負って行くのだと思い知らされたようだった。
「ふむ。こっちは悪くないな」
「容赦ないよなお前って」
「ずっと思い描いていたからな。様になっていて当然か」
 もう一度姿見と向き合う。腕章を携えたぼくをずっと思い描いていたのなら、今その念願は叶った。気分はどうだ、そう聞いてやりたいが鏡に映るのはぼくだけだ。隣には誰もいない。

 まもなく、あいつがたどり着くはずだった倫敦だ。

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