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さやかと杏子

 辺りが辛うじて浮かび上がるだけの照明と、窓から射し込む月明かりとまだ少し冷たさを残した春を感じる風。二人分の体重を悲鳴を上げながら支えるベッドは、やっぱり少し狭かった。
綺麗な赤がシーツに広がるのを見れば、更に心臓の音がアップテンポに騒がしく、折角の杏子の艶かしくぼんやりした光に包まれる姿とミスマッチで萎えそうになった。ここは整った音を奏でるバイオリンソロのクラッシックとかさ。それこそあたしたちにはミスマッチかも知れないけれど。
歪んでいた唇をそっと触れるようにあたしの唇で塞げば、答えるように薄く口を開いてくれるのに甘えて舌をねじ込む。ごめんね、ちょっと乱暴だよね。まだまだ慣れないのはお互い様で、焦りなんてしなくていいのに求める杏子の息が伝わる瞬間に肉食獣みたいに奪い取るに等しいキスする。杏子もまた酸素をあたしから奪い返そうと、結局最後は奪い合いでめちゃめちゃになってゲームセット。女の子らしくなんて、あたしたちの辞書にはないのかも。肩で息をするベットインなんて色気もなにもあったもんじゃない。まるで杏子に惹かれ酔うような目眩は、ただの軽い酸欠だけれど、この感覚は嫌いじゃない。
「疲れるよなこの関係」
「肉体的にね」
「色気ねーよな」
「もっとふわふわでピンク色で優しそう、ってイメージだったんだけど」
恋の色、感触。なんてないのだけれど。あくまでもイメージ。あたしが読んできた少女漫画と、幼馴染みへの片思いの体験は確かにピンク色にも見えたし甘酸っぱい気配もしたのだけれど。
「取られたら取り返したいじゃん」
「負けず嫌いだよね」
「うん、こればかりは妹出来てからも譲ってないし」
「最低な長女だね」
「うるさいな」
最低だと言った口元は笑いを含んで緩やかなカーブを描いてる。冗談で談笑するつかの間の息抜きというか、次なる戦いに備えての探り合いも兼ねている。勝ち負けで決まる関係ではない…はずだけれど。


「なんかさ、あたしららしいって言うか」
「これじゃあ上条取られても文句言えねえわな」
「杏子さん、ちょおーっと今のは聞き捨てならないぞぉー」
「あ、ごめ、さやか!ちょっと口が滑っただけだって…!やだやだ!耳はやめ……ッあ」

 今日は地雷を踏んでしまった彼女の負け。

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