水戸洋平が魅せる実演会@
『ええっ…天才魔術師…?』
「ただのあだ名な。しかも非公式。」
水戸洋平はそう言って呆れたように笑った。隣に立つ宮城から教わったその異名…なまえは思った。あの牧でさえ「天才」とは言われていなかった…一年生にして相当な大物なのでは…と。
そしてなまえの予想は当たっていた。A組所属、今年の新入生水戸洋平は曽祖父曽祖母をはじめ、祖父母、父母親戚全員がこの魔法学校を卒業した魔法使いという純血な家系に生まれた生粋の魔法使いなのだった。教師達の期待を一身に背負い、その期待に応えるだけの実力を兼ね備えた男。一年生にして炎魔術レベル4を既に習得しており、あろうことか炎以外の他五種もレベル3までなら扱えるという次元の違う魔術師なのだった。
『えっ…全部の魔術が使える…?!そんなことってあるの…?』
「魔法学校創設以来の天才だって教師達も騒いでるよ。」
「やめてよリョーちん、そんなんじゃねぇから。」
長い歴史の中で六種の魔法を全て操れる者は未だかつていなかったという。そして水戸は専門の炎魔術の習得がレベル4にして既に闇魔術まで習得している強者なのだった。
『どうして…?!自分の魔法をレベル5まで極めた人だけが闇魔術を習えるんじゃなかったの…?』
「それは俺にもわかんねぇんだ。」
水戸洋平、生まれきっての天才魔術師。彼には彼なりに悩みがあった。闇魔術とは魔法界に置いて最恐の魔術と言われており、その威力は世界を滅ぼすことが出来るほどだと言われている。その闇魔術を中途半端な技量の魔法使いが扱うわけにはいかず、下手したら自分が滅びてしまう可能性さえあった。それ故に魔法学校では、専門の魔術をレベル最大の5まで極め、なおかつペンダントに認められ、カラーが二色に分かれた者だけが習える魔法だったのだが…
そのルールに縛られず既に闇魔術レベル3まで扱える水戸にとってそれは脅威であり自分で自分を制御できなくなるのではないかと怖くなると言う。その為炎以外の魔術はほとんど使ったことがないのだとか。
「なまえちゃんまだカラー決まってないし、水戸に六種類全部見せてもらったらいいじゃん。」
やって見せてよ、デモンストレーション。
宮城はそう言って二人を連れて中庭に出た。自主練を行えるよう設備が整った中庭で、闇以外の一通り六種のレベル3魔法を披露してくれると言うのだった。
『本当にいいの…?疲れたりしない…?』
「全然、3くらいなら余裕だよ。」
『ありがとう…!すごい、楽しみ…!』
キラキラとした瞳で見つめられた水戸はどうしたもんかと頬をかく。女子生徒が初めてだということに加えて幼少期から血筋が濃い魔法使いということもあり一般庶民とあまり関わりを持たないよう接してきていたのだった。いつ何時自分が相手に悪影響をもたらすかわからないからだ。それ故に女に微笑まれたことも見つめられたこともほぼ記憶になかった。
「とりあえず炎からいくね。」
何かを誤魔化すように水戸はそう言うと誰もいない中庭で右手の人差し指を空に向けた。キイッと音が鳴り赤く指先が光る。
「 炎よ、空に舞い上がれ…フレアポール 」
キッと中庭を指差すとそこには空に向かって縦に連なった炎の柱が現れた。バチバチと火の粉が舞い遠く離れたなまえも熱さを感じるほどだった。
『これで、レベル3なの…?』
「レベル5はゴリしか扱えねぇ、これの数倍の炎柱が出現するんだよ。ここの寮と校舎くらいなら一瞬で焼き尽くす威力がある。」
『…すごい…一瞬で焼き尽くす…?』
「うん、俺はまだ練習中。」
水戸はそう言うとスッと右手を顔の横から顔の前へと動かした。何かを掴むようなその動きに一瞬にして炎柱は消え去るのだった。
魔術を扱うということは当然炎を出すこともそれを消すことも出来るわけで。まだ習得中の者が扱うとなると出現させることが出来ても消せなかったり、消そうとすると余計に増加させたり…とそういう事例が付き纏うのだ。
「 水よ、共に戦え…ウォーターウェーブ 」
瞬く間に出現した波。青いストーン、水魔術のレベル3「ウォーターウェーブ」荒い波が一気に押し寄せ全てを飲み尽くす勢いだ。水戸の腕の動きに合わせて一瞬で消えるそれ。なまえはもはや言葉にならなかった。
「 Lightning Strike 雷よ、落ちろ 」
突如現れた雷。それはなまえが初めて見た魔法、神がやって見せた雷魔術であった。黄色に光った指先から繰り出された稲妻は何度見ても腰を抜かすほどに威力がある。
『凄い…なんか、頭が追いつかない…水戸くんは本当に天才なんだね…』
「いや、そんなんじゃねぇけど、もっと上を目指したいとは思ってるよ。」
笑ってそう答える水戸の笑顔はとても綺麗で眩しく輝いてさえ見えた。それなのにどこか寂しげにも見える。なまえはなんとも言えないような表情で水戸の横顔を見つめていた。皆それぞれ背負うものがあって大変なんだろうな…とそう思っては自分も頑張ろうと心を奮い立たせるのだった。
Aに続く。