※公式の流れと異なります。


午前2時半を過ぎた頃。溢れんばかりのメッセージもそろそろ収拾がついただろう。メッセージアプリ開いて「おめでと」「プレゼントは、ない」と簡素な言葉に申し訳程度のスタンプも添えて送信。3月から始まったツアーも気付けば折り返し地点となった。そんな大阪一日目のライブを終え、興奮冷めやらぬままに結崎は誕生日を迎えたことだろう。今日もライブがあるし流石に眠ったはずだと、敢えてすぐには既読されない時間帯にメッセージ送ったのは、プレゼントを用意出来なかった後ろめたさがあったからだ。弁解をするのであれば、忘れていたのではなく本当に何も思い浮かばなかったのだ。恐らく、彼ならば欲しいと思ったものは簡単に手に入れることが出来るだろう。そう思ってしまったら、用意出来るものなんて何ひとつ無かった。

そもそも私達はプレゼントを贈り合うような関係なのかと言われたら頷きかねる。ゼミで出会い、時には一緒に講義を受け、ご飯に誘われたこともあれば、気晴らしのドライブに付き合ったこともある。が、それだけだ。全て友情の範囲内であるし、都合が良かったのがたまたま私だっただけ。そう自分で言い聞かせておいて滅入ってしまいそうになる理由なんて一つしかない。あのときから、なんて明確だった良かったのに。少しずつ私に侵食し、そして彼から目が離せなくなっていたのは果たしていつからだったのだろうか。気付けばメッセージアプリのプロフィールをやたらにチェックするようになったのだって仕方ない、はず。滅多にそれが変わることはなかったが、1度だけ、私が撮った写真をアイコンにしたことがある。仲間内で海に行った日に、ブルーをバックに笑う彼を収めた写真。グループのほうに送り忘れた、なんて嘘をついて個人的に送信したのは、どうしても他のメンバーに見せたくないという私のエゴだった。太陽光を跳ね返す海に負けず劣らずの眩しい笑顔を何度見返したことだろう。アイコン脇の『エンジョイサマー(^o^)/』に思わず破顔したのは、勿論彼のSNSをチェックしていたからだ。

彼の日常に登場できるだけで幸せだなんて思えたらこんなにも貪欲にならなかったはずだが、残念な事に私は1ミリでも多く結崎芹の記憶に残りたいと願った。反面、そんな自分に嫌気が差して思いとどまったことも数知れず。結局のところは、向こうからのアクションがない限りは何も出来ない意気地無しになってしまった。深夜に送ったバースデーメッセージも、大量の通知に埋もれたくなかったからだ。願わくは、朝起きて最初に目にするのが私からの言葉でありますように、と。


『なんで』


ディスプレイの通知と共に表示されたメッセージは疑問を投げかけていた。そして私も同じ言葉が思わず零れた。差出人は結崎。動揺してフリックが上手くいかない。ロックが解けた瞬間の着信に、反射的に応答を押してしまった。『もしもし?』スマホを通して聞く彼の声ははっきりとしている。もしかしてまだ寝ていなかったのか。何を言うべきかと頭をフル回転させた結果、彼の体を労わる為に睡眠を促すことした。

「寝なさい」
『23歳成りたての芹さんに言うのがそれかよ~』
「明日もあるんでしょ。何時だと思ってんの」
『だってお前からLINE来てんじゃんって開いたのにプレゼントはないとか言ってるから』

俺とお前の仲なのに?!と言われても、私と結崎の関係がどの程度なのかなんてわかっていたらこんなに悩んでないし変な時間にメッセージを送りもしない。そうやってあたかも自分と関係が近いようなことを言うから、私みたいなのが引っかかるんだ。いっそひと思いに釣り上げて煮るなり焼くなり好きにして欲しい。あわよくば私を特別にして欲しい。卒業して会うことが減ったことにより、私は結崎の耐性が無くなってきているのかもしれない。耳元で聞こえる声に変に意識してしまって、さっきから会話の内容が入ってこないが明後日が、なんだって?

「ごめん、もう一回」
『は?お前こそもう寝た方がいいんじゃないか~?明後日、空いてるのかって聞いてんの』
「明後日って…19?平日かあ。仕事終わりでいいなら」
『十分。…かどうかはお前次第かな』
「え…なんなの」
『プレゼント請求しに行くから。まずはお前の時間をくれな?』

まずは、とは一体いくつ請求するつもりなのか。通話が切れ静けさが訪れた空間には心拍音が嫌なほど響き、もしかしたら隣の部屋まで聞こえてしまっているかもしれない。


続きます
4/17 千里
Happy Birthday to Yuisaki Seri.Hope your special day is filled with happiness.


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