「梨本くんって、髪すごいさらさらだよね」
ふと顔を上げると苗字が前の席に座ってこっちを見ていた。特に気にしたことは無いが、確かに粟田と比べれば、まあ、さらさらしてるなーって、それくらい。
「でもかなり痛んでると思うぜ?」
「えー」
「髪乾かさないで寝たりすんもん」
「あ、それはやばいね。枝毛とかあるのかなー」
苗字が俺の髪を手に取り、枝毛、とやらを探し始めた。枝毛がよく分からずに聞けば、見たら分かるそうな。
「んー」
「あったか?」
「うーん…」
真剣な顔をして髪を凝視するあまり、顔が段々と近づいてきて、これは、近い。
「あ!あったよー」
「どれどれ…」
至近距離で近づいたまま苗字の指先を見ると、あぁ、と合点した。確かに枝みたいに毛が分かれてる。
「へー。これがあると痛んでんのか」
「そうだよー」
「苗字にもあんの?」
「無いと思いたいけど…」
「見つけてやろ」
ちょっとした好奇心で苗字の髪に手を延ばすと、彼女は俯いてしまった。
「あ、見やすくしてくれてんのか?」
「いやちょっと…髪触られるの恥ずかしいなって…」
苗字は照れてるらしい。さっきは俺が照れてたわ。こんな近い距離なら尚更。
でも照れさせてると自覚したら俺までまた照れ臭くなってきた。めっちゃドキドキしてる。一体俺は何をしてるんだ。髪を触ってるだけだ。
「や、やっぱり探さなくていいよ…!」
体を引こうとした苗字。俺は引き止めようとして、髪はマズイ、と思い咄嗟に苗字の首もとを引いた。
「「え」」
引いたのはいいが、顔と顔が物凄く近くなってしまい、お互いが直ぐに体を引いた。
「……ご、ごめん」
「……大丈夫…」
お互い顔が真っ赤なまま、チャイムがなるまで固まっていた。
−放したくないって思ったら、自然と身体が動いてた−
(なんで引き止めたんだ、俺)