いつかは俺たちだって!
その笑顔見れただけで、なんか不思議とうれしくなる



あいつは普段からニコニコしてるけど
それが俺だけに向けられた瞬間ってのがたまらなく嬉しいわけで。
頭の中ぱーっとなるんだわ。
だからあいつに笑ってもらうために
何をしてやろうかって考えるのが
俺の最近の日課になっている。











放課後、粟田にパシられて教室まで忘れ物を取りに帰ると
しかめっ面で固まっている苗字がいた。


「苗字ー?」

「わっわわ!あ、梨本君か…」

「めっちゃ驚いてんのな。何してたんだ?」

「えっと…今日は教室で課題をやっていこうかなって思って
やり始めたんだけど、どうしてもわからないやつがあって…」

「そんであんなしかめっ面してたのかー」

「そんな顔してた!?」

「もー眉間に皺寄せちゃって」

「恥ずかしい…」



赤い顔で眉間をなぞる苗字に笑えてきたけど、さすがに失礼だと思って堪えた。
でもバレバレだったらしく、笑ってるでしょ、と言われてしまった。



「ははっ悪い悪い…」

「いいけど…これ、代わりに教えてくれる?」



俺は苗字の前の席に後ろ向きで座り、悩んでると言う問題に目を通した。



「あーこれなー。直ちゃんもわかりにくいっつってたな。」

「授業ではわかったんだけど…」

「よくあるよくある。んで、これはこうしてな」



シャーペンを走らせ、答えを導いていく。苗字を盗み見れば熱心に俺の手元を見ていた。うん。悪い気はしないな。



「…と、わかったか?」

「うん。ありがとう」

「ほんとか?」

「ほ、ほんとだよー!ちょっと馬鹿にしすぎだよー!」



真っ赤になって怒る苗字。まじでこいつ、






「可愛いなー」






「え?」

「…ん?」

「……」

「え、いや、いやいや違う!違くないけど!そういうんじゃなくて!てか俺何言って…」



次に真っ赤になったのは俺のほう。思わず口走った言葉は当たり前だが苗字の耳に届いてしまっていて。



「な、梨本君」

「おおおう」

「…ありがとう」



いえいえこちらこそ、なんて返して微妙な空気の中、俺は席を立ち教室の外へ向かった。
出る間際に振り替えると苗字と目が合う。
あいつはまだ少し赤い顔で微笑んだ。








―その笑顔見れただけで、なんか不思議とうれしくなる―
(その"不思議"に未だ気づけない彼の恋路は)





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