雇い主と従業員といったところだろうか、銀さんと私を表すとするならば。この関係は変えてはいけないし、変わるはずもない。いくら私が銀さんを好きだろうと。


だから、










「万事屋、辞めます」













私の言葉に目を丸くした銀さんに背を向け、足早に万事屋を後にした。銀さんが何か言う前に出て行きたかった。引き止められれば決意が揺らぐし、ただ別れを告げられれば、それはそれで傷つくだろうから。


見上げればどんよりとした空模様で、私の気分も下り坂。あぁ、やっぱり辞めなければ良かった、なんて思い始めたけど、もうそんなのは後の祭りであることは十分わかっている。



(気持ちだけでも、伝えておけば良かったかな…)



溜め息と共に地面へ落ちる水滴。見上げれば顔に水滴がかかった。雨だ。



(傘なんて、持ってきてないし)

(行くとこだって決めてない)



道でただ立ち尽くすだけだった。



「あれ、名前?何してるアルか?」



赤と紫の二色はこの暗い天気に良く映えた。そして聞き慣れた独特の口調の彼女。



「神楽ちゃん…」

「傘も指さずに何してるアル!また銀ちゃんの代わりに依頼行ってきたアルか。そんなの新八パシっとけばいいネ」

「はは…」



神楽ちゃんや新八君は私が万事屋を辞めたことを知らない。事情を説明しようか迷う私の手を取って神楽ちゃんは歩き出した。



「私の傘、一緒に入ればいいネ。一緒に万事屋に帰るアル!」

「え、あ…」





結局万事屋の前まで帰ってきてしまった。階段を上ったところで神楽ちゃんは私の後ろに回り、玄関へ背中を押した。



「銀ちゃんと何かあったアルね。見てれば分かるアル。女の勘舐めんなヨ!」

「神楽ちゃん…」



神楽ちゃんは笑顔で、頑張れヨー!と言い残し、階段を駆け下りていった。そして私の目の前には万事屋の玄関。帰る決心が出来ていた訳じゃないから、なかなか手が出せない。開けるか開けないか、私の中で葛藤が続いた。



「……っ」



突然背後から腕を回され、強く抱き締められた。見慣れた着物の袖が目に入った。背後で感じる静かで単調な呼吸とは裏腹に、背中から伝わるのは速まる鼓動だった。



「お前いなくなってまじで不安だった。心配で探しに行って…でも帰ってきて、安心した」



消え入りそうな声に堪らず切なくなった。



「好き、銀さんが好き…」



涙と共に溢れた言葉はさっきの銀さんに負けないくらい小さかった。それでも、彼には届いたみたいだ。



「俺…お前いないと駄目なんだわ。やる気出ねーし、無性に悲しくなるし、切ねェし…こんなにお前のこと好きだったんだって思った」

「ごめんね、もう、此処にいるから…」



更に強くなった腕にそっと手を添えた。銀さんが凄く、凄く、愛しいと思った。










(君にいちばん近い距離)
―さあ、僕らの場所へ帰ろう―


お題提供:雲の空耳と独り言+α





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