「…哉太」
部屋に入るなりキスされてそのまま押し倒されて、この流れだとまずい事になってしまう、と必死に抵抗した。何がまずいって、私達は付き合ってる訳でもないし、第一哉太は月子のことが好きなのを私は知っている。月子が錫也を好きなことも知っている。そしてきっと錫也も月子に対して幼馴染み以上の感情を抱いていることも気付いている。知っている以上、これはまずいと思ったわけで。
「哉太」
必死の抵抗のおかげか、哉太自身それを望んでいたのか、ようやく解放されて体を起こした。
「どうしたの。月子となんかあったの?それとも錫也と?」
「…なんもねえ」
「そう」
大方、月子と錫也を見るのに耐えかねたのだろう。誰から見ても相思相愛で、なのに付き合わなくって。哉太の気持ちはずっとずっと大きくて、その分ずっとずっと辛いんだと思う。
「哉太」
友達として、相談相手として、私は
「あたしを月子の代わりにしていいよ、とか言ってあげないよ」
「哉太が好きなのは月子、違う?」
「諦めんな。哉太の気持ちはそんなちっぽけな物じゃないでしょう?」
言い聞かせるように哉太の目を見る。哉太は逸らさなかった。そして私は立ち上がり、ドアに向かった。
「……ごめん」
「今日のは無かったことにする。忘れよ」
振り返らずに告げ、ドアノブに手をかけた。
自室に入りドアを閉めるとそのまま座り込む。
(忘れ、られるのかな)
気付かない努力をしてきた。
哉太はきっと報われない。
そして、私も。
うまくいかない恋の話
(苦しいなあ)
title:ポケットに拳銃