約束の時間は部活終了後。教室へ向かいながらすれ違う生徒たちは皆それぞれのマフラーを首に巻いている。もうすっかり寒くなった。部活で汗ばんだ体も、外へ出てしまえばすぐに冷めてしまう。それほどに此処は寒い。

ひょっこりと教室に頭を覗かせると、彼は自席に突っ伏していた。部活後で疲れていたのだろう。穏やかな顔で眠っている。



「梨本くーん」



揺すっても起きず、気持ち良さそうに眠る彼になんだか起こすのは可哀想かも、と思った。同時に首が寒そう、とも思った。彼のうなじに触れるとやはりひんやりとしていて、私はそっと自分のマフラーを彼の首に巻いた。



「風邪引かないでよ」



軽く頭を小突いて教室を後にした。

















his side



いつの間に眠ってしまったんだろう。約束の時間を少し過ぎてしまっていた。体を起こすと首元の存在に気が付いた。俺のじゃない。あぁ、あいつのだ。お陰で温かかった。携帯を開くとあいつからのメールが一件。『マフラーは明日でいいから風邪引かないでよ』五分前に受信している。まだ、間に合うはず。

俺は荷物を持つと教室を飛び出した。















her side



マフラーが無いとやっぱり寒い。風は弱いものの、顔に吹き当たると思わず息を止めてしまう。私のほうが風邪引くんじゃないか。冷えた手を擦り合わせ、吹き掛けた息は白い。



「さむー…」



瞬間、後ろから首に何かを巻かれ、びっくりして振り向くと梨本君だった。巻かれたのは彼に貸した私のマフラー。



「ひでーなー。置いてくなんて」

「だ、だって梨本君寝てたから!」

「嘘嘘、冗談。マフラーありがとな。お陰で良く眠れた」

「安眠の為にやったわけじゃないよ!」

「え?んじゃなんで?」

「…寒そうだったから」

「どこが?」

「首が」

「ふーん」

「なによ」



じゃあさ、と彼は私をすっぽりと腕の中へ。私の頬は彼の首にぴたっとくっつけられた。



「あーこりゃいいわ」

「ちょ、ちょっと…!」

「ん?」



抵抗すればもっと抱き寄せられて、私は諦めて彼の背中に手を回した。彼の嬉しそうな笑い声がすぐ傍で聞こえる。私は結局甘い。彼も甘い。寒さはもう感じなかった。










冬の寒さもこの愛の前には無力
(温かいよ。心も体も)



title:ポケットに拳銃




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