委員会のせいで友達も既に帰ってしまった放課後。下駄箱へ向かえば鼻をかすめる雨の独特なにおい。雨が降るなんて聞いてない。生憎おりたたみ傘は家に置きっ放しだ。つくづく自分の不用心さが嫌になる。これは覚悟を決めて雨の中を帰って行くしかない。唯一あったタオルを頭に被せ意を決したところで背後から聞き慣れた声。



「邪魔でィ。うろつくんじゃねーやい」



振り向けばそこには総悟がいて、自然と鼓動が高鳴る。右手には傘。憎たらしい笑顔でそれを見せつけるように開いた。



「名前、傘はどうしたんでィ」

「無いけど、何か?」

「入って行きますかィ?」

「………いらない」



さっさと帰ってればいいじゃん。あたしはタオルで頑張るし、なんて可愛げも無い言い方。素直にありがとうって言えば言いのに。総悟も歩いて行ってしまった。

あたしってほんと嫌な奴だ。昔からずっと総悟が好きで誰にも負けないのに心にも無いようなことばっかり言って困らせてた。いつもいつもそう。いつの間にか彼女が出来てたりしてその度嫌味を言いまくった。そんなことばっかり頭でぐるぐる巡って、自分のふがいなさに泣けてくる。








「傘無いくらいで泣きそうな顔すんじゃねー」



再び目の前に現れた総悟。呆れ顔であたしの手を引く。それに恥ずかしくなって降り払ってしまった。ヤバいと思ったときにはもう遅く、総悟は苛ついた顔をしていた。



「何しやがんでィ。人がせっかく」

「ご、ごめ…」

「ったく可愛げのねー女でさァ」

「…っだから謝ってんじゃん!!」

「そういうとこが、」

「総悟の馬鹿ッッ!!!」



タオルを投げ付け学校を飛び出す。さっきよりも雨足が強くなっていて髪を制服を濡らしてく。涙も雨も混じって顔はぐしゃぐしゃ。 それでもしばらく走るのを止められず、家まで半分位のところでやっと歩き始める。周りなんか気にせずボロボロと涙を零す。今あたし物凄く惨めだ…。

突然雨が止む。でもそれはあたしの上だけで、雨の音に混じって後ろから乱れた息遣いが聞こえる。



「お前っ…そんな……ずぶ濡れで…」

「総、悟」

「ほんっとお前は馬鹿でさァ…だから、」



ぐるりと総悟の方を向かされそのまま腕の中へ。肩がずぶ濡れで、傘は走ったせいで意味を成していなかったらしい。ぎゅっと力が込められた。



「ほっとけないんでさァ」

「総悟…」

「名前が…好きだ」



傘がバシャンと地面に落ちた。気にせずあたし達は抱き締め合う。伝わってくる総悟の体温が心地良くて。全身を伝う雨も今は気にならなかった。










―不器用なんだよ―
(お互い、ね)



お題提供:雲の空耳と独り言+α




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