ジメジメとした空気に暑苦しい男子共。世間は梅雨入りで太陽が雲の間から顔を覗かせることもない。雨が続いているのでサッカーもろくに出来ない。これは困った。このままでは体が鈍ってしまう。いや、オレは究極だからそんなことはないか。それはそれとして、オレは今、迷子だ。もう一度言おう。迷子になってしまった。今日はエンシャント女学院の生徒会長の元へ行き合同文化祭の打ち合わせとやらをしなくてはいけないのに。すぐ隣だと聞いていたから青銅が付き添ってやろうかと言ってくれたのだが、迷わずに行けると過信したためこうなったのだ。ほ、方向音痴ではないぞ。とにかく、このじめったくて陰湿な森を早々に抜け出さないことには、下手したら一生ここで迷っているかもしれない。やはり青銅を連れてくるべきだったな…。
「シュウ、濡れるぞー」
「大丈夫だよー!木があるからー!」
お、女の声がした。そうだ、オレは今からエンシャント女学院に行くんだったな。声が聞こえたという事は、案外近くに来ていたのかもしれない。流石究極であるこのオレに死角などなかったというわけだな。さあ、さっさとエンシャント女学院に行こう。
「ん?」
「どうした?」
「誰だ!!そこにいるのは!!」
いきなりの大声に思わず体が跳ねた。どうやら見つかってしまったらしい。いや、元々隠れてはいないのだが。だんだん近づく足音に耳を傾けつつも、その声の主が近づいてくるのを待っていた。
「ここはエンシャント女学院の領域だよ。何で君がここにいるのかな?」
「シュウ!って、あらら…男じゃん…」
「最近この近くであまり好ましくない被害が相次いでいるんだけど、もしかして犯人は君?」
「違う。オレはアンリミテッド学園の人間だ。ついさっきここに来たばかりなのだが」
「ふーん、なら用件は何?」
「秋に行われる合同文化祭の打ち合わせで生徒会長と話がしたいのだが…案内してもらえないだろうか?」
「…!なぁんだ!そんなことかぁ!いいよ、別に」
少し雨に濡れた黒髪と、その上で光るエメラルド色の髪飾り。比較的大きな瞳に、程よく日焼けしたであろう少し小麦色の肌。思えば、同年代の女と接触するのは初めてだ。全てを覆い隠すようなその黒い瞳に飲み込まれそうになる。何だこのむず痒い気持ちは…。
「でも君が犯人じゃなくてよかったよ。本当ここ最近、事件ばっかで物騒になっちゃってねー」
「だからこうやってパトロールしてるんだ」
「そうなのか…女子も大変なんだな…」
それから小一時間、こいつらの世間話やら日常の事などを延々と聞かされた。危うく忘れそうであった本来の任務。いい加減女子校に案内してはくれないだろうか…とも言えずにまた小一時間話を聞き続けていた。
「…おい!いい加減生徒会長のところに案内してくれ!こっちも時間がないんだ」
「あー…そういえばそうだったね、うん。いいよ。さぁ、話してよ。その打ち合わせの内容とやらを」
「?何故お前に話すんだ?オレは生徒会長と…」
「だってボクが、エンシャント女学院生徒会長だもの」
「…え?」
「びっくりした?」
「!?」
正直、驚いたというよりも見上げてくるその視線にどうにかなってしまいそうというのが本音というか、つまり。息を飲んでもう一度真実を問う。するとこくんと頷いたその頭。
「ボクはシュウ。よろしくね」
「…白竜だ」
これが出会いだった。