(ナンパされることは何回かあったけど名前なんて聞かれたことなかったし、考えてない。かといってマルコって名乗ったらバレる。何かいい名前…カモフラージュできるいい名前は…)
ふと、ジャンルカの後方に見える看板が目に付いた。
「え、あ、オルマ!オルマって言うの!!」
「オルマ…いい名前じゃないか」
オレが喋る度にジャンルカは優しく笑いながら接してくる。どうやら本気で女だと勘違いしているのだろう。
元々オレはジャンルカより身長が低くて、女装だからと言ってヒールを履くわけでもないから普段の身長と変わらない。自然と、少し見上げる形になる。
「どこに行こうか。お昼ご飯はもう食べた?」
「まだだよ」
「何が好き?」
「パス…、っごほごほ!!何でも食べるよ!」
いつもの癖でパスタと言いそうになり慌てて咳払い。ちょっと危なかったかな。
でもジャンルカは鈍いから特に気にしてなくて、おすすめの店があるからと案内をしてくれた。
(実家、なんですけど)
オレの家が経営してるレストラン。流石にそれはマズいと思って、ジャンルカを上手く説得して他のお店に。
…ジャンルカの奴、オレがいると思って店に来たのかな。
「甘い物が大好きな女の子は好きだよ」
「それって、甘い物が嫌いな女の子は嫌いってこと?」
「いや…基本的に女の子は好きかな…もちろんオルマのことも…」
ジャンルカの頬がほんのりピンクと言うか、ちょっと待て。こんなジャンルカ、初めて見たかもしれない。連鎖反応でオレまで恥ずかしくて顔が熱い。相手はジャンルカだぞ、正気になれ。
「会ってすぐにこんなこというのもあれだけど…オレ、オルマみたいな女の子がすごく好きで…さっき始めて見た時に運命を感じたんだ」
「ジャンルカ…」
「オルマみたいな、というよりオルマが…」
(何だよこの展開、ちょっとやばいんじゃ…)
「だから、今日1日だけなんて…あれだから…良かったら、連絡先を交換、しないか?無理ならいい…」
ジャンルカの眼差しがオレの目に突き刺さる。内心でくすくす笑ってからかっているとかそういう暇もなくこの男は唐突だった。
連絡先を交換したいと言われてもマルコの連絡先を渡せばバレる。でもオルマとしての連絡先なんて考えない。また土壇場か…。
オレは携帯を開いて、ジャンルカの携帯に向けて赤外線送信。
姉の連絡先を、借りました。