「マルコー、あんたまた私のスカート着たでしょ!」
オレの部屋は至ってシンプルがモットーで、目立つものなんて特にない。そこらへんの奴らと同じ部屋。
―…クローゼットを開けるまでは…―
「姉ちゃんこれくれるって言ったじゃん!」
「あらそう?言ったか覚えてないわ…。というかマルコ、あんたまだそんな趣味持ってるの?みんなドン引きね…」
「出来る時にしとかないと人生もったいない気がするし、自分で言うのもなんだけど結構様になってるだろ?」
「…バカな弟…でもかわいいからお姉さんが特別にお洋服プレゼントしてあげる!お古だけどね」
そういって姉ちゃんは自分の部屋からおとなしめのワンピースを持ってきた。だけど姉ちゃんがこのワンピースを着ているところを見たことがない。
「元彼からのプレゼントで貰ったんだけど、あんたにあげるわ」
「何だよそれ!押し付けじゃん!」
「こういうワンピース好きでしょ?本当なら彼女にでも譲ってあげなっていいたいけどあんた彼女いないし自分で着るだろうから…ってもう着てるし」
「似合う?」
「はいはい似合う似合う」
全身が映る鏡の前でくるくると回る。
普段はズボンでぴったりとしているけれど、ワンピースはふんわりとしていて足にまとわりつかないし、丈が長いのが少し邪魔だけど。
「出かけてくる!」
「変なナンパには気をつけなさいよ〜?最近物騒な事件が多いんだから…」
「心配してくれてるんだ…」
「あんたはお母さん譲りの顔立ちだからねー…変な奴に捕まらないといいけど。ま、気をつけて」
なんだかんだで姉ちゃんは優しい。
オレがこういう趣味を持ったのは大半が姉ちゃんのせい。よく着せ替え人形みたいに扱われていたせいで女服に抵抗がなくなり、いつしかそれが趣味に変わって。
最近じゃあ母さんまでもが面白がってオレにドレスやらなんやらを着せて遊んでいる。こんなことしているけれど、戸籍上は一応男なわけで。
普段は普通にサッカーをしている普通の男の子だ。
「いちごのジェラート一つ」
いつもの広場でいつもの味。休日の楽しみ。口内に広がるいちごの甘酸っぱさが程良くて、賑わう広場のベンチに腰をかけていた時、ふと隣に誰かが座った。
「暇なら今から一緒にお茶しませんか?」
ああ、ただのナンパ野郎か。
そう思ってチラリと視線をやると心臓が飛び跳ねた。
こいつの顔はよく知っている。同じサッカーチームの一人で女の子が大好きな…ジャンルカ・ザナルディ…―
オレをマルコだと気付いていない様子らしく、オレの返事を待っている。普通に喋ればバレてしまって大変な事になる。
いつもより少しだけ声のトーンを上げて、いつもと違う口調で返事をした。
「ええ、大歓迎よ」
ジャンルカが普段どのようにして女の子と接しているのかが気になって、ちょっとだけこいつで遊んでみようと。
返事をすればジャンルカはニッコリと笑ってエスコートしてくれる。
「オレはジャンルカ。君の名前は?」
名前、なんて考えてない。