ハロウィン、だっけ。オレはハロウィンとかそういったイベントは人並み程度に楽しむんだけどこいつは違う。違うんだ。ちょっと思い出したくない去年のハロウィン。散々だった。流されたオレもオレだけど。
「マルコ」
オレの名前を呼ぶジャンルカ。こういうイベントがある日は誘っているかのような声色で甘く囁くんだ。その一言一言にドキドキしながらも返事をする。
「今日はハロウィンだな」
「お菓子はないよ‥どうせあげても悪戯するんだろ」
「そういうマルコはオレに悪戯されたくてわざとお菓子を準備しなかったんだ…へぇ…」
「ち、違う!なんでお前はいつもいつも…っ!」
「もしかして図星?照れてる?」
「っもういい…オレ今からアンジェロとお菓子作るから。お前は一人遊びしとけバカルカ」
去年もこういうやり取りをした挙げ句の果てに、ジャンルカはドS精神を燃やしてオレを…思い出したくもない出来事だ。なんていうか、つくづく思う。オレはジャンルカに甘い、と。もちろんジャンルカもオレに甘い。これはお互いが心を許してる証拠というか。
「…マルコ!」
「何だ、っんぅ!?」
「トリックオアトリート」
「〜っ!!もういい好きにしろよ…」
ジャンルカは卑怯だ。オレがジャンルカの頼みを断れないって知ってるいるから、その弱みにつけ込んでくる。正直な話、断る理由もないし、オレもオレでジャンルカに溶け込んでしまっている。言葉とは裏腹に実は物凄くジャンルカが好きってことも知ってる。知ってるけれど認めたくない。
だって認めたらこいつは調子に乗るから。
「ジャン…、っまだ、早い…!」
「待てない。マルコがかわいい顔してるから…」
「理由になってない!んっ、うあ…やめろって…!」
ジャンルカの手がするりと服の中に入り込む。熱く火照った体とは反対にジャンルカの冷たい手が存在を大きく示した。胸板をゆっくりと撫でられて、どこかもどかしい気持ちになる。
「耳だっけ。弱いの」
「ひっ…!」
ガクン。
一気に全身から力が抜け落ちてジャンルカの前にぺたんと座り込んでしまった。
「やっぱり楽しみは夜に取っておくものだな」
額にちゅっとキスをされると誘うだけ誘ってジャンルカは部屋から出て行ってしまう。いつだってあいつが一枚上手なのが悔しい。
作ったお菓子に毒を盛ってやろうかと、思った。