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僕には、ずっと憧れている人がいる
…いや、憧れというよりは恋、といったほうが正しいかもしれない
カラン カラン──
『いらっしゃ…あ、』
「こんにちは、アオイさん」
作業をしていた手を休め、アオイさんは小さく笑みを浮かべて僕を見た
外見だけ見るなら、彼女は平凡としか言いようがないだろう
『こんにちは、アレンくん』
人間は中身が大事とはよく聞くが、彼女はまさにそれだ
「すみません、いつもお邪魔してしまって…」
『ふふ、いいのよ。…あ、そうそう。これ見て!』
嬉しそうな笑みを浮かべて見せてくれたのは、鉢植えに植えられた…小さなチューリップ
「あ、やっと蕾が開いたんですね」
『そうなの!ちょうど今日開いたのよ』
花屋を1人で切り盛りしているアオイさんの店には当然のごとく花が所狭しと並べられており、いつも目を奪われてしまう
花と、アオイさんに…
『──アレンくん?』
「あ、いや、何でもありません!…綺麗だなぁと思って……」
変なアレンくん、と言いながらもアオイさんは笑っている
僕が綺麗だと言ったのは、花のことだけじゃないんですよ、アオイさん
……なんて言えるわけもなく、つられてただ笑うことしかできない
普段はギクリとするほど鋭いというのに、こういうことには何故か疎いだなんてベタすぎないか?
……しかし、彼女に否定されるのが怖くて何もできない僕がいるのも、また彼女のその疎さに甘えているというのもまた事実
先に進みたいのに進むことを躊躇う臆病者なんだ、僕は──…
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