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まだ小学生ぐらいの女の子の存在に気づかない程興奮している群衆は、まっすぐ少女がいる場所へと走ってきている
『ったく誰よ、こんなところに連れてきたのは!』
思わず舌打ちだってこぼれる
このままだと少女は踏みつぶされてしまう―――迷ったのは一瞬だけで、朱音はすぐにA.Tを履いて少女の前に立った
カシュンッ
突然現れた朱音に、目の前にいた男たちは驚き立ち止まる
「な、なんだよテメェ!」
『別に。アンタたちがこの子を踏みつぶしそうな勢いで走ってきたから、この子を助けただけよ』
余程怖かったようで震えている少女を優しく抱きしめながら、男たちを睨む
これで素直に悪かったと言ったらそれでいいと考えていたのだが……
「はぁ?んなガキ知るかよ!」
「女がでしゃばってくんじゃねー!!」
全く反省した様子もない男たちに、朱音は目を細める
『…アンタたちさ、今この子を殺してしまうかもしれないところだったんだよ』
「んなところで突っ立ってるそのガキが悪ィんだよ!」
「Gメンの連中も来てんだ!逃げねぇとヤベーだろ!」
『……へぇ…』
自分たちが取り返しのつかない程大きな墓穴を掘ったことに気づいていない男たちは、どんどん自分たちの首を絞め続けている
「だいたい邪魔なんだよんなガキ!」
「テメーもな、ブス!」
呆れたと言わんばかりにため息をこぼす朱音の周囲を大勢の人間が通り過ぎていく
男たちを完全にスルーし、朱音は視線を下に向け少女を見つめる
『ねぇ、キミ名前は?』
「え、あ…えみ……」
『えみちゃん、ね』
唐突に話しかけられ驚いている少女――えみに、ここで初めて笑みを見せる
『ちょーっと我慢しててねぇ?えみちゃんもライダーだからできるよねぇ?』
何を、とえみが聞き返すよりも早く、唐突に視界が赤く染まった
―――朱音を中心に炎が吹き荒れたのは、その次の瞬間だった
。
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