23
…―――俺は、無敵だった
無敵になるのは難しくなかった。俺たちを取り巻く全てが敵だったからな。ただその全てに牙をたて続ければよかったんだ
アキラがいて、"金色"――朱音がいて
血溜まりの底で、いつしか"王"と呼ばれるようにもなった
――あれは、いつからだった?
あの夢を…亜紀人がコワれる夢を見るようになったのは…この体が、思うように動かなくなったのは…
この日がくるのは、あの血溜まりの中で生まれた時から知っていた
1つの体に2つの人格…そんなモノいつまでも保つわけがない
<俺>の存在が、亜紀人を蝕んでいく
だから、俺は今日限りで消えるよ、亜紀人
もうココにはあの頃みてぇな敵も、俺の必要性も……居場所も、ないから
「お…俺…がっレガ…王璽をっ…とる……から……!」
必ずとるから…亜紀人、お前だけはあいつらと…ずっと―――!
「…かつて最強と言われた"牙"が、これ程までに折れているのを見るのは俺もつらい」
なんでだよ…!
「せめて次の一撃で楽にしてやろう…永遠に…!!」
俺は結局何一つ残せねぇんかよ…俺がここにいた証すら残せずに――!
「ちっくしょおおおおお!!」
涙を流しながら叫んだその時、突然地面が崩れた
「!」
そのまま何もできず下へと落ちていく2人
その先には、同じく落ちてきたイッキとハンマーの姿があった
「アーギートー何やってんだよっそんなツラしやがって!」
澱んだ空気は風が根こそぎ吹き飛ばした
ココはもう井戸の底ではない―――空だ
「忘れてるみてーだからよ、もう1回教えてやるよ。空の飛び方ってやつをな!」
『……、イッキ』
スクリーンから目を逸らさず、朱音は小さく呟く
――咢を、救ってあげて
。
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