22 勝利の女神は微笑む
【第5話】
『ハァ、ハァ…ッ!』
鵺が追ってきていないことを確認して、朱音はようやく足をとめた
『い、った……!』
目が、燃えるように熱い
ズルズルと目を押さえたままその場に座り込む
まさかあの程度で"反応"するなんて―――今、この目はカラコンしているのにも関わらず真っ赤に染まっていることだろう
『…っ』
ひたすらこの痛みがなくなるまでジッと待つ
しばらくすれば目の痛みも少しずつ引いていき、朱音はホッとため息をつく
この目を、鵺は見てしまったのだろうか?
彼の驚いた顔を思い出す
一瞬だけだったし、気のせいだと思ってくれればいいのだが……
微かに聞こえてくる歓声で、オニギリがゴーゴンに勝ったことが分かる
これで、咢とイッキが勝てば小鳥丸の勝利となる
『、よしっと…』
朱音は立ち上がり、スクリーンが見える場所までヨロヨロと移動する
そこに映し出されている彼らの名前を無意識のうちに呟いた
『……咢…アキ…、』
【…お…俺は…実況失格だ……この…戦を伝える言葉が…ねぇ】
観客も彼らに魅せられ、言葉を失っていた
"王"同士の戦は、他のとは明らかに格が違う――――だが、
『…動きが固いよ、咢…』
アキラに比べ、咢の動きは明らかに悪い
技にキレがなく、そんな状態で彼に敵うわけもなく、咢はもう満身創痍だった
それでも、咢は涙を流しながらも攻撃を続けようとする
亜紀人のために、自分を犠牲にしてでも勝つという決意
だが、"牙"はあまりにも――弱っていた
放った蹴りは、あまりにも弱かった
【な…なんという光景だっ…かつて鮫の牙と呼ばれた足技が見る影もない――…】
。
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