silver wolf | ナノ




06



エリシアの森は別名神隠しの森とも言われている。
この森に足を踏み入れると帰ってこれなくなるという迷信を地元の人は真剣に信じているせいか昼間だというのにこの森には人の気配はない。
木々が生い茂っているせいか日の光は中まで入らず、薄暗い不気味な雰囲気を醸し出していた。


「相変わらず暗ェとこだなァ…」


赤い魔方陣が地面に浮かび上がった時、声とともにカナタの姿がその暗い森に現れた。
"瞬間移動"は移動時間がケチれて重宝しているのだが、この船酔いにも似た独特の感覚だけは好きになれない。
中級魔術だが、まだまだ改良の余地がある。


「えーっと?討伐対象は…あぁ、スライムだな」


木々を侵食している粘着いた液体を見てすぐに標的を思い出す。
細かい種類は学者共に言わせればあるらしいが、そう大差もないから"スライム"と1つにまとめて呼ばれるその魔物はハッキリ言って初心者向けの魔物だ。
分泌される液体だけは気をつけたほうがいいが、それもかぶってしまったら落ち着いて傷薬を塗ればいいだけのこと。
鋭い爪があるわけでなく、空を飛べる翼があるわけもなく、素早く動くわけではないスライムは初心者にはうってつけだろう。
しかしそんな雑魚でも数があればそれなりに鬱陶しくなる。
粘着液によって溶かされている木をみればその数は軽く10は超えているはず。


「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、ってか?」


場所が神隠しの森だということと、かなり数が多いスライムからクラスをBってことにしたんだな…
だが弱い雑魚の大軍は今の俺にとっちゃあまさに好都合だ。
前回の依頼で興味もない研究所の機密事項入手だなんてクソみてェな任務を受けたせいでイライラが溜まってるんだからな。
腰にさした2本の刀のうちの1本を抜刀する。


「だから俺のストレス発散に付き合ってもらうぞ」


後ろに感じる気配は適当に数えたけどおそらく10は下らない。
大小様々なスライムたちが向ける確かな殺気に、ニヤリと笑みがこぼれる。
動きが遅いスライムなんていいマトでしかない。
この妖刀・紅咲(くれないざき)だって血に飢えてるだろう?

刀身を指で撫でたあと、後ろを振り返って勢いよくスライムの中へと突っ込んでいった。

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