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「王族の血を引く人たちって全員髪が黒いんだよね。中には瞳も黒の人もいたけど…まぁそれは本当に珍しいことなんだけど」
この人なんかはそうだよね、と絵本の表紙に書かれている絵を指差す。
「瞳も髪も真っ黒。王族の中でも結構珍しいほうだったよ、シュール様は」
「シュール様、ねぇ…」
「こんな絵からじゃ伝わらないと思うけどすごく顔立ちの整った人で、民のことをよく考えてくれてるいい王様だったと思うよ」
このシュールとかいうオーサマは、それこそ童話に出てくるような優しいオーサマだったらしい。
でもそういう王様って悪い奴に結構殺されるパターンが多かったような…んで、悪政に苦しむ民の中から救世主が現れ…みたいな?
ってか今さらだけどこの国って王様が統治してるわけね。
「ここ…アズウェラ国って大き過ぎるんだよね。だから昔から治安は悪くて…僕らみたいな弱者には生きにくい国だったけど、それはシュール様の時だけは緩和されたって言われてる。賢王だったって老人たちは口を揃えて言ってるぐらいにはね」
「へぇ…いい王様だったんだな」
「そうだね…取りあえずその頃は平和だった。出しゃばらない后(きさき)、聡明だったと言われる王子……誰もがこのまま平和が続くんだと思ったと思う――だけど、それはたった1日で覆されたんだよ」
ウルは絵本をパラパラとめくっていき…あるページを俺に見せてきた。
そこに描かれていたのは、表紙の王様…つまりシュールって奴の上に乗っかっている男の絵だった。
新たに登場した奴は、金髪碧眼といったシュールとは似ても似つかない色彩を持っている。
「えーっと?…どこからともなくあわら…現れた盗賊によって、王様はたおされてしまいました…?」
あまり穏やかではない文章を読み上げるとウルが頷く。
「そっ。シュール様の上に乗っているその金髪の名前はリト。シュール様を殺し、王座を奪い取った"反逆王"さ」
「ヒデー話だな…」
リト、という名前らしい今の王様があまり市民に歓迎されていないのは何となく察することができる。
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