58 yu side
「なんだこれ…えーっと、さいごのおうさ…ま?」
カナタさんが家を出て行ってもう1時間近くたった頃、俺はたくさんの難しそうな本が並ぶ本棚の中から一冊の絵本を見つけた。
覚えたての文字をゆっくりと読みあげると、それに気づいたのか休憩していたウルがこちらを向いた。
「あぁ、それね。懐かしいもの見つけてきたね、ユウ」
「たまたま見つけちゃってさ」
最後の王様、と書かれたタイトルの下には、黒髪の優しそうな男性の絵が描かれている。
「それ禁本指定なのにさ、カナタさんは絶対にそれを手放そうとしないんだよ」
「え、これが発禁扱い!?嘘だろ?どう見たってただの幼児向け絵本じゃん」
エロすぎるとか国の思想に悪影響を与えるとか…この絵本からはどう頑張ったってそんな箇所は見当たらない。
「あのねぇ、これは明らかに今のオーサマに反抗意識を持ってるって分かるんだよ?これを書いた著者は行方不明に、印刷所と取り扱った本屋にも営業停止命令が出されたんだから」
「この絵本のせいでか??」
「……呆れた。あの日のことすら知らないなんてね」
きっと、薄々ウルは俺が普通ではないことに気づいている。
それでも何も問いただしてこないのは、俺を信じているからというよりも…カナタさんを信じてるから、といったほうがいいだろう。
「しょうがないなぁ…教えてあげるよ、王様が…漆黒を持つ人間が消えた日のことを」
黒、という言葉に一瞬心臓がはねた
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