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手の動きに合わせて"中"から金を出し、それをジジィの前に無造作に落としていく。
数えるまでもなく、ピッタリ850リオンだろう。
だからジジィも数える素振りを見せず、受け取った金をそのまま自分の宝石の中へと吸い込ませた。
ちなみにコイツは石を指輪として使っている。
「取引終了じゃ。さっさと帰れ」
「…言われなくてもこんなボロ小屋、さっさと出てくっての」
ブチ殺したくなるぐらい生意気なジジィに一瞬手が動きかけたが、なけなしの理性で押しとどめる。
抑えろ、俺。ここでこのジジィを殺すのはたぶん楽勝だが、この先面倒なことになるのは明白だろ?だから耐えるんだ、俺…
「おお、その憎たらしい顔見たら思い出したわい」
「…耐、え、ろ、俺」
「何1人でブツブツ言っておるのだ。ほれ、これをやろう」
そう言ってジジィが投げてきたモノは、これまた年季の入った1本の刀だった。
紅咲のような綺麗さもなく、かといって白椿のようにいかにも、な空気も流れていない、見た限りでは極普通の刀だ。
「何だこれ」
「特別に無償じゃ。宝刀"流牙(りゅうが)"…名前ぐらい聞いたことがあろう?わし好みの"イワク"もないからお前に譲ってやる。"新人"にでもやるんだな」
"流牙"…たしかに妖刀ではない、普通の刀ではあるが名の知れた刀匠が打った世界に7本しかない刀のうちの1本が、この"流牙"だ。
それに新人に、ってことは…コイツはユウのことももう知ってるってことか。
「…まぁもらえるモンはありがたくもらっておくけど…あんまり俺らに突っ込んでくんじゃねーよ」
いくらジジィでも、許されない境界線を越えた時は俺は躊躇なく殺すことになる。
忠告を残し、俺は"流牙"を持ってボロ小屋から出ていった。
「…"雉"のリーダー…それを見た時、あ奴はどんな顔をするのだろうな」
小さく呟かれたオーリの言葉は、届かない
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