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「いいか?その感覚を忘れんなよ。"ジョウロ"の傾け方次第で"水"の出る量は多くも少なくもなる」
「…ん」
生まれて初めての魔術に少し茫然としているのか、曖昧な返事を返すユウ。
集中をやめて魔力を流すのをストップしたせいで、指先にふれていた紙はもとの白い紙へと戻る。
色がつくのはあくまで一時的なものなのだ。
「ま、当分は炎術とかなんて到底無理だけどな。しばらくは初級補助魔術からだ」
"宣言"や"浮遊"などの超初歩的なものを学んでもらわないといけないのだ。
"宣言"は上位の"血の契約"のもととなる術だし、"浮遊"だって他の中級攻式の術と組み合わせればそれなりに使えるものとなる。
基礎を疎かにしては何も実らない、というやつだ。
「ズブの素人に当たり前にやってることを教えるのは結構疲れるな。後は優秀な元初心者のウルくんに任せよう」
「はいっ!任せてくださいカナタさん!」
「俺はちょっと出かけてくるから。帰ってくるまでに最低でも1個は術をマスターしておけよ、初心者くん」
「一々煩いっての!分かったからさっさと出てけ!」
「残念ながらここは俺の家でもあるんだなぁ。なぁウル?」
「そうに決まってるじゃないですか!むしろユウが出て行ってほしいぐらいです!!」
「あ、おいテメェ…!」
「ふふん。そうゆうことだから初心者で居候のユウは大人しく腕を磨いておくように」
ニヤァと相手の神経を逆なでするような笑みを浮かべて上から目線で言ってやると案の定ユウの額に青筋が見える。
パクパクと言葉にならないぐらい怒っているらしいユウが正気にかえる前にと俺は軽やかな足取りでマイホームから逃げ出した。
……ドアを閉める直前、ユウが俺の名前を叫んでいるのが聞こえたような気がしたが、もちろん無視しよう。
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