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「……まさか、文字まで読めない、とは言わないよね…?」
俺の微妙な表情を見て悟ったのだろう、恐る恐るといった様子で聞いてきたウルに、俺は勢いよく頭を下げた。
この際年上のプライド云々なんて言ってる場合じゃない。ここでウルに教えてもらえなければ冗談抜きでこの先やってけない。
「お願いします!!」
「あ、いや、分かんないなら別に教えるから…。僕に頭下げるのやめてよね」
「ありがとな、ウル!!」
カナタさんと一緒に暮らしているとは到底思えない素直さに感激してしまう。
性格がねじりまくっているカナタさんと一緒にいたらどんなに根が素直な人でもねじられそうなのに…あぁその笑顔が眩しいっ。
「本当に何も知らないんだね…まるでここじゃないどこかから突然来たみたい」
「は…ははは…」
その通りデス、とも言えず乾いた笑みがこぼれる。
「取りあえず今日1日は文字を読めるように頑張ろ?そして明日は書く勉強。明後日から魔術って感じでね」
「あぁ…なんか、悪いな。イチから全部やってもらっちゃって…」
「僕はユウのためにやってるんじゃなくて、カナタさんのためにやってるだけだから」
口ではこう言ってるものの、ウルはちゃんと俺の勉強用にと色々なものを用意してくれる。
その不器用な優しさに頬がゆるむのを感じながら、俺は覚悟を決めてアラビア文字みたいな字が並んだ本を見た。
これを2日で読み書きをマスターしなければいけないのは少し泣きそうになるが、せっかくの貴重な時間を無駄にするわけにもいかない。
日本では記憶力には定評があった俺なら、きっとできるはず…というかやるしかない。
「で、まずこれが五十音ね。取りあえず文字を覚えてくれないとどうにもならないから…」
「おう。頑張るわ」
この様子を、寝てたとばかり思ってたカナタさんが見てたなんて全く思わず、ただ俺はアラビア文字風の字相手に格闘をしていたのだった。
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