37
「依頼内容を簡単にだけど説明しておくか」
荒れていた心が落ち着いてきた頃を見計らったかのようなタイミングでカナタさんが話をもとに戻してきた。
一瞬心臓が嫌な音を立てるが、先ほど突然告げられた時ほどは動揺することなく話を聞く態勢をつくれた。
「……あそこが依頼を出すなんて、本当に珍しいですよね」
「あぁ。だからこそ優先度も難易度もそこそこの依頼だ」
そう言ったカナタさんはピンと指を二本立てて俺の前に突き出した。
200リオン…っていうのはカナタさん的にはありえないから……まさか…
「え、2,000リオンですか!?」
思わず声が裏返りそうになる。
今までカナタさんと組んでやってきた依頼はたいていCかBランクのもので、報酬も1,500を超えたことはなかったというのに…。
2,000リオンとなると、おそらくランクはAだ。
「そんな高額な依頼、僕がいたら余計邪魔になるんじゃ…」
客観的に自分の実力を見たら僕は依頼ランクでいくとC、よくてBランクといったところだろう。
1人だったらBランクは少し危ないかもしれない、というところだから1人でやるときは専らCかDのみ。
まだ魔術というのを習い始めてそんなに時間が経っていないんだから仕方がない、といつもカナタさんには言われるが、やはり悔しいものは悔しい。
自分の身を守ることをまず最初に、ということで僕が習ったのは最低限の守式と補助式のみで、さらなる上級魔術や攻式は今勉強の最中だ。
僕にとって幸いだったのは、あまり会得できることのできない"癒術"を扱えることだろう。
人の傷を癒す術式の総称を"癒術"といい、医療に携わる人はこの癒術を扱えることが絶対条件となってくる。
僕にできてカナタさんにできないこと唯一のことが、この"癒術"だろう。
だからこそカナタさんは僕を練習がてらBランクの討伐系の依頼に連れて行ってくれることもあるのだ。
街中での戦闘がある時は大抵僕を連れて行ってくれるから、あの街に行くからと連れて行かれるのは納得できる。
だけど突然Aランクって……癒術以外ではまるで役に立つことはできないだろう。
「練習だ練習。俺がいるから大丈夫だろ」
軽く、あくまで軽く言ってのけるカナタさんはAランクでも全然気にしたりしないんだろうけど、僕みたいな一般人には全然大丈夫じゃないんです……
.
[ 64/146 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]