silver wolf | ナノ




36



「お前はんな余計なこと考えなくていーの」


乱暴な手つきで髪の毛をかき混ぜられてるからおそらく僕の髪の毛は今恐ろしいことになっているはず。
でもそんなことよりも、カナタさんの言葉のほうが大事だ。


「こんなくだらないことぐらいで俺がお前を捨てるわけねーだろ?行きたくない場所だってことぐらい俺にだって分かってんだ。むしろ行くことを了承してくれたことのほうが俺は嬉しい」

「そこの役立たずくんよりもよっぽど俺は愛してるぜ?」

「…おい、その"役立たず"ってのは俺のことじゃねぇよな?」

「お前以外に誰がいんだよ」


今までずっと黙っていたユウが我慢できないとばかりに口出してきたおかげでシリアスな空気はあっという間に霧散していった。
きっとカナタさんの思惑通りなのだろう…この空気の中湿った話はとてもできそうにない。
カナタさんを取られたという気持ちもあるが、ユウからは人に懐かれるオーラ、みたいなものがにじみ出ているせいか憎めない。
カナタさんの人から敬遠されるオーラとは正反対のもので、きっと2人一緒にいればプラスマイナスゼロになりそうだ。


「だいたいお前飴と鞭の使い分け良すぎ!何その絶妙のタイミングで優しい顔しちゃってさ!」

「自分は鞭しかもらってないからって妬くなよな」

「全然、妬いて、なんか、ねー!!」


カナタさん相手にそんな暴言をはける人がいるとは…これがもし違う人だったらたぶんもうその人はこの世からいなくなっているだろう。
ユウを見た時、カナタさんを取られてしまうんじゃないかと不安で思わず睨んでしまったが、きっともうユウは気にしていないんだろう…
顔立ちは整ってるし身長も高いから男にも女にもモテそうなのに、どこかそのテのことに疎そうなイメージもある。
まぁ1番かっこいいのはダントツでカナタさんなんだけど。
――この2人と一緒なら、あの街にだって行けるような気さえしてくるから不思議だ。
そう思ってふとカナタさんを見ると、ちょうどカナタさんも僕を見ていたらしくバッチリと目があった。
慌てて目を逸らそうとしたけど、ふいにカナタさんが口元をつりあげたのを見て思わず動きを止める。


「ん?どうかしたんか、ウル。変な顔して固まって」

「う、うぅん!なんでもない!何でもないから!!」


何の他意もない、僕にのみ向けられたカナタさんの綺麗な笑みを見て固まった、なんて恥ずかしいから絶対に言わないんだから!

.

[ 63/146 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -