silver wolf | ナノ




35 uru side




悔しい、というよりも怖い、という感情のほうが大きかった。
僕はカナタさんしかいない。
僕をあの街へ売り払った親の顔なんてもうずっと昔に頭の中から消去してるし、あの街でお世話になった人なんて誰1人としていない。
カナタさんだけ……僕をあの街から解放してくれたカナタさんが、僕の全てなんだ。
またあの街に行くのは本当に嫌だけど、それよりもずっとカナタさんに見放されるほうが怖かった。


「…ごめ、なさ……」


身をきるような激痛がようやく去り、荒い呼吸を繰り返しながら謝罪の言葉を口にする。
ここで要らないと言われたら……そう想像しただけで泣きたくなってくる。
あの街に行くぐらい、カナタさんに捨てられて1人で生きてくよりずっとずっと易しいことなのに。
銀髪なんて全く気にならない。僕からしてみれば普通の髪色でもあの街にいる奴らのほうが余程"異常"に思える。


「ごめんなさい…っ」


大勢いる"商品"の中から僕を選んでくれたカナタさん。
館の主の出し値で僕を買ったと言ってたから相当な額だったのは間違いないはず。
嫌で嫌で死ぬほど嫌だった性行為も、カナタさんとなら本当に幸せな気分にさせてくれる。
抱くつもりで買ったわけじゃない、と言われた時は本当に嬉しくて…半ば無理やり抱いてもらった時も、あくまで僕を気遣ってくれた。
初めてだった。挿れられる時、"大丈夫か"って気遣ってくれた人は。


「行く…行きます…っだから、だから僕を捨てないで……っ」


いつの間にか涙まで流していた。
ユウと一緒でも何でもいいから、僕を捨てないで…っ
右耳にある刻印はカナタさんとの"約束"の証。これがなくなったら、本当に僕には何もなくなる…
惨めに泣きすがる僕を、カナタさんはどんな思いで見ているのだろうか?
邪魔に思われていたら、と思うと怖くて顔をあげられない。
ただ地面を見ながらカナタさんの声を待っていると……


「……お前なぁ」


呆れた声とともに、ふいに頭にぬくもりを感じた。

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