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「それで?今日は何か用があるんですか?」
「依頼だ。それも結構大口の、な」
勧められた紅茶に口をつけ、ハッキリと告げる。
隣のユウは紅茶が珍しいのか、チビチビと飲みながらこちらを伺っている。
「へぇ〜珍しいですね、カナタさんが大口のモノをやるなんて」
「アイリスに押し切られてな。今回はお前も同行して欲しい」
「いいですよ、全然!このまえ依頼を終わらしてきたばかりですし、時間は空いてます!で、どこに行くんですか?」
「ユールグール」
ピタリとウルの表情が固まった。
「……今、なんて…」
「ユールグールだって言ったんだ。俺の…俺達の次の仕事場所はお前の古巣のユールグールだよ」
「な、なんであそこに…また戻らなきゃ、いけないんですか…?」
顔色が真っ青で、カタカタと震えながら小さな声で呟くように言った言葉に、俺はなるべく平坦な口調で事務的に告げる。
「ユールグールは俺よりもあそこにいたお前のほうが詳しいし、根っからの"外の人間"よりも"元住人"のお前がいたほうがあっちもやりやすいはずだ。出発は1週間後の予定だ」
「……り…ムリです…あそこだけは……」
「ウル」
「嫌ですっ!あんな…あんな腐った場所になんか行きたくないです…っ名前を聞くだけでも嫌なのに……っ!」
耳をふさぎ、心の底からの拒否を露にするウルを見て何も思わないほど俺は冷たい人間ではない。
これは別の場所の依頼ならここで諦めるのだが、あの歓楽街だけは別だ。
俺ら"外"の人間では知りもしないルートから情報も流れてくるし、その筋しか知らないモノだってある。
一々あの街の人間を脅して言わせていてもキリがない程度には、な。
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