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厳しいことを言ったとは思うが、別に意地悪で言ったわけではない。
ユウにだって自分で考え、自分で決めることはさせるべきだと思ったから……自分の決めた道なら、多少辛くても耐えられる。
「着いたぞ」
ついた場所はメインストリートの喧噪から少し遠ざかった静かな場所だった。
ウルの家はこじんまりとした小さな一軒屋だ。
俺からしたら少し狭いような気もするが、家主になるウルが一目見て気に入った家だから別に文句は言わない。
家の購入代金ぐらいこの際だから全額払ってもよかったのだが、そこは頑固なウルに固辞され、俺が出した総額の半分を今少しずつ返してもらっている最中だ。
「へぇ…なんか日本とそんなに家は変わらないんだな」
「そうなのか?」
「あぁ。すっげー高いマンションとかボコボコ建ってたけどな」
似てるようでどこか似ていないニホンの話を聞きながら俺達はウルの家へと入っていく。
もう家に施してある侵入者感知エリア内に足を踏み入れたからウルは俺達が来ていることにもう気づいているはず。
「カナタさん!…とユウ」
「あからさまに俺の顔見てため息つくのやめてもらえるかな」
リビングで3つ分の紅茶を用意してくれていたウルは俺の姿を見ると顔を輝かした。
ユウを見てガッカリとした表情を浮かべはしたがあれはウルなりの愛情表現だろう。本当に嫌ならそれはもう見事なほど視界に入れないのだから。
「ただいま、ウル」
いつも家に寄ると言っている言葉だが、これを言うとウルは本当に幸せそうな笑みを浮かべる。
ここはウルの家で俺の家ではないというのに…別にウルのその顔は嫌いじゃないから俺は毎回言っている。
「…おかえりなさい、カナタさん!」
また今日も可愛らしく笑って、ウルは飛びついてきた。
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