silver wolf | ナノ




31


5,000リオンと言えば俺でさえ半年は生きていける大金だ。庶民なんか3世代に渡って遊んで生きていけるだけの金だろう。
そんな大金を払ってまでウルを買ったのは、ただたんに利害が一致したからだ。
俺は"普通に"生活できる奴が欲しい。あの時求めていたのは、帰る家だった気がする。
そしてアイツはここからの解放を求め、俺に協力することを誓った。
俺達の関係はそこから始まったんだ。


「ま、世の中強い奴が得をする仕組みになってるってことだよな」

「ウルが…」

「アイツさ、あんな顔してるじゃん?そのせいで"外"に出てからもいつもなめられていて相当悔しい思いをしたんだろうな。ある時俺に土下座して頼みこんできたよ。自分に戦う術を教えてくれ、と」


いかにもプライドが高そうなウルが土下座した時は本当に驚いた。
基本的にあの街は"商品"に魔術を教えることはない。下手に抵抗されて客に傷をつけたらそれこそ大変なことになるからだ。
身分が上になればある程度基本的な初級補助魔術程度は教わるが、守式や攻式は教わらない。――高級男娼として働いていたウルとてそれは例外ではない。
最初全くやる気のなかった俺もその必死の熱意に負け、一通り自分の身を守れる程度まで魔術を教えたのだ。
そこからはウル自身の努力で俺と仕事を組める程度まで魔術の腕を上げてきた。


「あの街で一度"商品"になった奴は一生出てこられないと言われている。それは法外な身請金という理由もあるが、何より生き残るのが厳しいからだ」

「厳しいって…だって、一応…その、商品なんだろ?大事にさてれんじゃねーの?」

「確かに商品っていえば商品だな。だがそれはいくらでも替えがきく期間限定品だ。金さえ払えば大抵のことは許される街で、ただ単純に抱かせるだけ、で終わることのほうが少ないな」


中には恋人にはとてもできないようなマニアックな行為をするために娼婦を買う奴だっている。薄暗い、人には見せられない欲望の捌け口がこのユールグールだ。
現にウルも俺が初めて会った時は全身に鞭で打たれた跡があり、半分死にかけの状態だった。
だいぶ薄れてきたが今もまだウルの体にはその時の痕が残っている。


「お前が俺の前に現れたのは本当に幸運なことなんだってこと、分かってもらえた?」

「……」

「今の話を聞いて、それでも俺とウルについてくるというなら別に止めやしない。だがついてくる以上、俺らに迷惑かけるなよ」


キレイな場所があればキタナイ場所もある。
ユールグールという街は"キレイ"な社会を影から支える最も"キタナイ"部分だ。
それっきり俺達は何も喋ることなく、ウルの住処まで歩いて行った。

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