01 kanata side
カラン、と軽い音を立てて開けた扉の向こうには、今日もたくさんの人が集まっている。
「あら、いらっしゃいカナタくん」
カウンター客に"商品"を渡していた女性がこちらに気づいて柔らかく笑った。
年の頃はおそらく20代後半だろう(本人は10年以上前から19歳と言い張っているが)
亜麻色の髪を一つにまとめてあまり好きではないらしい化粧を身だしなみ程度にしている姿は可愛らしく、"客"からも好評価らしい。
彼女から"商品"を受け取っていた男も邪魔されたとばかりの目をしてこちらを見てきたが、俺の姿を見るとギョッと表情を豹変させた。
「こんちわアイリス。俺にも売ってほしいのがあるんだけど」
そんな男の視線は無視し、俺はカウンター席へとゆっくり近づく。
カツン、カツンとブーツのかかとが響く音が心地よい。
"客"の男は慌てて"商品"を受け取ると、礼も言わずに急いだ様子で店から出て行った。
その様子を見ていたアイリスはあからさまに大きなため息をついた。
「もうっ!せっかくの金ヅルが帰っちゃったじゃない」
「30前のオバサンがそんな言い方しても可愛くも何ともないぞ」
「私はまだ19歳ですー」
まだ言い張るのか。
呆れて言い返す気にもなれず俺はついさっきまで男が座っていた席へと座った。
じんわりと他人のぬくもりが伝わって不快な気分になるも仕方がない。
「今日はどんなモノをお望みで?」
「討伐系。それも高額な。前の諜報系は二度とごめんだ」
「なんで〜?いいじゃない諜報系。あーゆうのやれる人って案外貴重なのにっ」
「チマチマした作業は基本的に好きじゃねーんだよ。頼まれたって二度とやるか」
まだ渋るようにチラチラとこちらを見てくるアイリスを完全に無視し、出された水を一気に飲み干す。
話を聞いてくれる気配はないと悟ったのだろう、アイリスがため息とともに仕事に取り組んだのを見て俺はゆっくりと目を閉じた。
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