22 kanata side
「悪魔に?」
間抜けな顔で聞いてくるユウタに、俺は頷く。
ユズキと言う名を聞いたとき、何故か嫌な予感がしたがたぶん気のせいだろう。
会ったこともない奴に嫌な予感もクソもない。
「でも悪魔に売り渡すぐらいなら俺が仕方ないからもらっておいてやる」
あのクソジジィの巻き起こした"界渡り"についでに巻き込まれた可哀想な異界人。
普段ならご愁傷様でしたで終わるのだが、コイツの黒眼を見て気が変わった。
どうこの世界で転んで堕ちていくのか…近くでジックリ観察するのも悪くない。
「そう、悪魔共なんて好き勝手甘言を吐いて好き勝手魂を持ってくような単純な奴だ。そんな奴より俺にもらわれておいたほうがマシだと思わねェ?」
基本的に、俺は"強い"奴が好きだ。"弱さ"故に気に入る時もあるが、それはあくまで例外的。
その"強さ"は別に何でもいい。腕っ節が強い奴、魔術の腕が強い奴も好きだが、一番好きなのが"意志が強い"奴だ。
たまにその意志をへし折ってやりたくもなるが、コイツの場合はその"強さ"の源を知りたいという要求のほうが高かった。
"弱い"のに、俺好みの"意志の強さ"…気に入るのも当然だろ?
「…何を差し出す代わりに何を叶えてくれるんだ?」
あ、好きなものリストに追加。"強い"奴、時々"弱い"奴、そこに"頭のキレる"奴追加。
バカみたいに妄信的に差し出された情報を鵜呑みにすることなく、何を得て何を失うのか…その秤を吟味しようとしているユウタに俺の顔が自然と歪む(あ、もちろん笑みで、ね)
俺は誰かを無償で助けてやるような偽善者じゃないし、例え報酬をもらっても依頼以外で誰かを助けてやるような善人でもない。
「さぁ?俺だって人間だ。欲しいモンはいくらでもあるぜ?だが一つ言うとすれば…俺はお前の望みを多分叶えることのできる数少ない人間の1人だ」
そう言えば、ユウタの目が僅かに見開かれた。
欲しいモノなんて特に決まっていないから曖昧にしておいたが、後半は事実。
俺じゃなくても叶えられるが、そのできる奴の数がかなり少なくなる。
もしここでユウタがこの提案を蹴っても、俺はただこの場から他の移動ポイントへと移動すればいいだけの話。その後は知らないし、知りたくもない。
――さぁ、お前はどうする?
。
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