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どこか別の場所に飛ばされたのとばかりに思っていたが、まさかエリゴールとかいう人の場所に行ってしまったなんて想像だにしてなかった。
だけどあの時は当然名前を名乗っちゃいけないなんてこと知らなかったから、もしかしたら柚樹は………
「ユズキ……まさか、な」
小さく呟かれた言葉は俺には届いていない。
「おい、契約が成立した以上俺らがどうこうできる問題じゃねぇよ。お前は俺の知り合いに頼んで"向こう"に戻してやるから……」
「ダメだ!柚樹も一緒じゃないと…っ!」
「だから、もう俺らじゃどうしようもないわけ。特級魔術を使える奴相手にお前はどうするわけ?見たところ何か武器を扱っていたようにも見えないカラダで、優秀な魔術師相手に勝てると思ってんのか?」
「そ、それは…」
そう、現実的には無理だと分かっている。
剣も魔法…魔術も使うことができない俺が、異世界から俺らを連れてこれるような奴相手に勝てるわけがない。
分かってる…分かってるけど……っ
「アイツは、柚樹は俺の親友なんだ…!元の世界に戻ったらまたいつも通り、バカみたいに笑っていたいんだよっ」
「…理想と現実が違うってことはもう分ってる年だろ?」
18年生きていればそれぐらいよく分かっている。
それでも、アイツも絶対に心細い思いをしてるから、俺が助けてやらなきゃいけないんだ…!
「覚悟は?覚悟はできてんのか?お前がいたところはどうだか知らねェがここは自分の身は自分で守らなきゃ生きていけない場所だ。誰かに殺されそうになっていても誰も助けてくれないんだ。負けた者の行く末は死か、死よりも辛い生のどちらかだ」
「…あぁ。俺は生き延びてアイツを助けてやるんだ」
「力を得るのは生半可なことじゃできない。それこそ他人に辱められ、打ちひしがれ、血を吐く思いでやらないとそんな力は手に入らない」
自分の包帯に手を触れながら、まるで自分自身に言っているような言葉にだって俺は揺るがない。
「俺は負けない。例え悪魔に魂を売り渡しても柚樹を助ける」
無表情でこちらを見るカナタさんの目に負けないように視線を逸らさず、ただ見つめ返す。
どれだけたったかは分からないが、ふいにカナタさんが呆れたように溜息をついて視線を外した。
「分かった、分かった。お前の覚悟はよーく分かった。――じゃあ文字通り、悪魔に魂を渡してもらおうか」
。
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