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こんな訳もわからない場所に連れてこられ、無暗に探索する程俺はバカではない。
これでも勉強は結構できたほうだし、記憶力にも定評がある。
取りあえず、誰か来るまでここを動かないことにした。
……こんな森の中に人が来るとはあんまり思えなかったけど。
「大丈夫かな…柚樹の奴…」
無駄に整った顔の親友の顔を思い出して少しだけ目頭があつくなる。
俺みたいに身長も高くないし力だって弱い柚樹なんて襲われれば一発で死んでしまう。
穴に落ちる時、どうして柚樹の手を握っておかなかったんだと今さらながらに後悔が押し寄せてくる。
――体育座りをして顔を埋めていたせいか、俺はその気配に気づくのが遅すぎた
「グルルルルル…」
「は?」
結構近くから聞こえてきた不穏な鳴き声に間抜けな声が口から飛び出した。
俯いていた顔をあげると、そこには明らかにヤバそうな奴がいて顔が引きつるのが自分でよく分かった。
ぐるるるる、なんて聞こえた時点でウサギやブタみたいな無害や奴じゃあないとは分かっていたが……俺の視界に飛び込んできたのは熊に似た、しかしそのデカさはそれ以上の化け物だった。
目をランランと光らせ、今にも襲ってきそうなソレを見て、叫ぼうとしても恐怖でひきつって声がでない。
「グルルルルル」
もうダメだと本能で理解してしまう。
このまま大人しく捕食者に捕らわれて食べられるのだと感じてしまったが最後、もう体は言うことを聞いてくれなくなる。
柚樹にも会えず、こんな山奥で誰にも看取られることなく死ぬなんて――
「…た、すけて…」
小さな、掠れた声で呟いた時、神様はまだ俺のことを見捨ててなかったのか綺麗な声が響いた。
――攻式炎術、"血桜壱ノ式"、発動
。
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