silver wolf | ナノ




10


そこにいたのは、1人の人間だった。
見たこともない、機能性が悪そうな上下黒い服を着ており、見た限り武器らしき物は持っていない。
よっぽど怖い思いをしたのだろう、尻餅をついてこちらを見上げたまま固まっている。
年の頃は俺と同じか少し下かぐらいだと思われる、中々整った顔立ちの男だった。


「お前…」


だがそんなことはどうだっていい。
俺は刀を鞘におさめるとまだ座り込んでいる男と目を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「え、な…っ!?」


驚きのせいで我にかえったのか男は俺が近付いた分だけ離れようとするが気にすることなくもっと体を…もっと言えば顔を近づける。
赤っぽい茶色の髪。これは別におかしい色じゃない。ここから少し…魔術では少し、物理的距離ではかなり遠い場所にある小さな国の中にはこのような髪色の者も多いと聞いたことがある。
それでなくともアズウェラは人種のルツボと言えるほど様々な国出身の人が住んでいるのだ。
髪の色の目の色もまさに千差万別、この髪色の人間だっていくらでもいるだろう。


「てめェ何で…」


しかし、"千差万別"とは言ってもまずないと言ってもいいぐらい見かけない色が2種類ある。
一つが"銀"。そしてもう一つは―――……


「何で"黒"を持っている…!?」


目の前の男の目を見ながら、俺は掠れた声で呟いた。
そう、髪色はそれ程おかしくなかったのに、この男の瞳の色は"黒"なのだ。
"黒っぽい"色なのかと思い真正面に、鼻がつくぐらい近くでその目を見たけど、これは間違いなく"黒"なのだと理解してしまった。
だがありえない。黒を持つ人間が、この世にいるわけがないのだ。
銀はごく少数だが確かにいる。この俺がいい例だろう……だが黒は、いない。
いや、"いない"ではなくて"いなくなった"、というべきか…


「お前、一体何者だ…?」


小さく漏れた、無意識での問いかけに黒を持つ男は普通に答えた。


「あ、俺…卯月勇太、です…」




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