silver wolf | ナノ




09


この神隠しの森って歩いていけばこんなすぐ出られる程小さな森じゃねーぞ?
弱小国ぐらい飲み込んでしまいそうなぐらい巨大な森だったはず。それをたかが数分歩いただけで開いた場所に出るなんて…部屋ん中に閉じこもってる学者共に見せてやりたいぐらいだ。
気になったからその開けた場所へと足を進めると……


「グルルルルル…」

「げ、ワイスプーレじゃん」


平地となっていたこの場所には、俺の2倍はあろうかという巨大な熊に似た魔獣が背を向けて立っていた。
ワイスプーレは一際凶暴性の高い生き物で、人には絶対に懐かないし鋭利な爪で色々な物を切り裂く、依頼難易度で行くと討伐系ランクBに相当する魔獣だ。
以前、別の依頼でコイツと対峙したとき、その当時気に入っていた刀を折られたのは苦い思い出でしかない。
大方スライムたちはコイツへの"生贄"を求めて凶暴化かつ集団化していたのだろう。
多くの魔獣たちと同じくコイツも根っからの肉食系で、人間の肉が好みなのだからタチが悪い。

しかし一体何に興奮しているのだろうか?
俺という人間が近くまで寄ってきたというのにワイスプーレは背を向けたままグルグルと唸っている。
前に何かあるのだろうか?
………気になるが、先にコイツを殺したほうからの方が絶対に早い。
後ろからは卑怯だ、なんて考え方はガキの頃に捨ててるから全く問題ない。


「――攻式炎術、」


俺の周りに赤い魔力が集まっていく。
その魔力の動きにようやく気付いたワイスプーレがこちらを振り返ったが、もう遅い。


「"血桜壱ノ式"、発動」


長ったらしい詠唱をほぼ全て破棄したこの中級攻式炎術は俺のお気に入りの術で、よく使わせてもらっている。
すらりと抜いた紅咲に、俺の周りで舞っていた集めた魔力が纏わりつく。
高密度の炎の魔力を纏った刀を、俺は無造作にワイスプーレに向かって軽く振った。
刀は当然標的には触れてないのだが、その纏っていた炎が刃となって飛ばされ、それをモロに食らったワイスプーレは勢いよく吹っ飛んだ。
魔力を纏わせる媒介は何でもいいのだが、中級などになってくるとそれなりの業物を使わないと魔力に耐えきれず壊れてしまう。
紅咲はその心配は全くいらないから別に何ともないのだが。


「さて、と」


吹っ飛ばされたワイスプーレはピクリとも動かず、死んだか…最低でも動けない程の重傷を負わせたのだからもう大丈夫なはず。
そう思い、ワイスプーレが見ていた"前のほう"を見て……俺は目を見開いた。



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