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『あっさり過ぎ…まァこんなもんかな』
なんてことないかのように普通に呟いた"亜希"を、クロームは険しい顔で見つめる
「あなた…誰、」
『ンなことどーだっていいだろ。"俺"は"俺"だ』
どうだっていい、そう言いきった"亜希"は荒い呼吸を繰り返す一護へと近づく
一護と"亜希"の視線が交わる
『"死神"があっさり虚にヤられてんじゃねーよ、情けねェ』
「、うるせェ…!」
『おー怖い怖い。オンナノコ相手に怒鳴るんじゃねーっての』
一護など歯牙にもかけず、自身の手によって斬られた傷口へと手をのばす
彼自身の大きな霊圧のお陰で血は殆ど止まってはいたが、その怪我がなくなったわけではない
かざした手が淡く光ったかと思えば、少しずつ傷口がふさがっていき一護は目を見開く
「、鬼道…!?なんで……」
『シニガミなら鬼道くらい使えてトーゼンだろ?』
死神なら――確かに死神なら鬼道は使えて当たり前だろう
だが、亜希は"普通の人間"なのだから、その論理は当てはまらない
ニヤリ、と真意の見えない笑みを浮かべると、パシッと傷口を軽く叩いた
「いっ!?」
『痛くないだろーが。この俺が直々に治してやったんだから当然だけど』
「おまえ…!!」
『そう怒んなよな……っと、もう"時間切れ"か』
はぁ、と疲れたように溜息をつく"亜希"
「時間…?」
『もーすぐここの結界が剥がされる。俺自身もーそろそろ戻らないと色々とヤバいし、つーわけで後は宜しく』
「え、あ、おい…!!」
ニヤリと笑った後、まるで糸がきれたかのようにその場に崩れ落ちた亜希
慌てて抱き起こすと意識を失っているようだったが呼吸は安定していて、一護は肩を撫でおろす
そして、鏡が割れるような音が大きく響いて――切り離されていた世界に、色が戻った
もう泣かないで(俺が護ってやるから、ずっと)
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