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25 もう泣かないで
―――こんなこと、したいわけじゃない
黒崎くんを傷つけたいわけじゃないし、お姉ちゃんを泣かせたいわけじゃない
歪む顔も、泣きそうな顔も、悲しげな顔も―――そんなもの、見たくなんかない
あの時差し出された手が偽りだということ、理解していた
この手を掴んだところで何も救われないということも理解していて――それでも、手を伸ばしてしまった
もう、私にはこの手しかないと思ったから――何もない私に残された唯一が、この手<偽り>だったから
私なんてどうなったっていい
だけど―――大切な人たちを傷つけたいなんて思ったことは一度だってないのに
『………ど……し、て………』
傷つきたくないのに
私のせいで友達が、姉が、傷つけられていく
逃げるために<偽り>に手をのばした私の弱さと狡さが、今こうして皆を傷つけている
『……わ、た…し……、……た…だ……』
ただただ怖かった
自分の意思とは関係なく、まるで操られるように動くこの体が
まるで夢でも見ているかのように現実味のない感覚
怖くて、見たくなくて、目を閉じて耳をふさいでそれらから目を逸らす
暗闇のなか、独りで小さく蹲ってこの悪夢が終わるのを待つことしかできなかった
『………っ、…………て…』
強烈な睡魔がおそい、またあの暗闇の中に戻ってしまいそうになる
悲しいこともなければ楽しいこともない、虚無の世界
本当は、あの場所は凄く心地いい空間だったのだけど………こんな私を、望んでくれる人がいるから
私の名前を呼んでくれる人がいるなら
私の存在を認めてくれるから
『………た、す……け…て……っ』
―――<手>を、貸してくれませんか?
。
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