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「亜希……、」
姉妹の視線が絡む
だがそこに意思の疎通ができる余地はない
まるで人形を見つめているような、そんな感覚がクロームを襲う
きっと妹は、あの少女にやれと一言でも言われたら迷いなくこの首を切り落とすのだろう
そして――また、この優しい子は傷ついてしまうのだ
離れ離れになった後、ずっと1人で戦ってきた亜希
ずっと傷つきながら戦って――そして、疲れてしまったのだ
「……ごめん、ね……辛いとき一緒にいてあげられなくて……」
届かないと分かっていながら、クロームは言葉を紡ぐ
「今までずっと…ずっと、一人で頑張ってきたんだもんね……ごめんね、助けてあげることができなくて………守ってあげられなくて…」
「ははっ!今さら何を―――」
「だけど、」
ユミの言葉を遮るように、クロームは静かにだけど、と続ける
「だけど……私の知ってる"亜希"は……そんな弱くない。他人に言われるがままに簡単に支配されてしまう子じゃない…!何もかもから逃げ出すような子じゃ、ない!」
刀を突き付けられているのに、クロームはそれを見ることなくただ真っすぐに亜希を見つめる
「助けてあげるから…今度はちゃんと隣にいてあげるから!だからお願い、亜希……笑ってよ……っ」
そんな何もない表情ではなく、数年前当たり前のように見ていたあの笑顔が見たい
綺麗で、見てるこっちまで楽しくなるような……そんな優しい笑顔を、見せてよ亜希―――
「…ふんっ!何勝手に言ってるんだか…もう何言ったって無駄だって何度言えば分かるの?」
苛立った表情でため息をつくミヨ
一度死んだ身である少女にとって彼らの"熱意"は理解できないものだった
無駄だと何度言っても納得してくれないのなら―――永遠に、何も語れなくすればいい
「お姉ちゃん、もういいよ―――殺しちゃって」
「…っ、亜希……!」
意識が朦朧としながらも、一護は何かを祈るかのようにその名前を口にする
刀を握る手に力がこめられたのを見て、クロームは反射的に目をつむり体を強張らせた
「………っ、」
―――だが、いくら待っても覚悟していた衝撃はやってこない
恐る恐る瞳を開ければ―――…
「亜希…?」
首ギリギリのところにある、カタカタと小刻みに震えている刀
血管が浮き出る程強く握りしめられた手
―――まるで、首を斬り落そうとする力を必死で抑え込もうとしているようで
「――っまだ自我が……!!」
忌々しげに呟かれたミヨの言葉
あり得ない、そんなこと起こるわけがない、そう言いたげな声色
「…、」
恐る恐る、顔をあげ――クロームは、目を見開いた
「亜希!!」
そこにいたのは先程までの"人形"ではなくて―――無表情で涙を流している、大事な"妹"だった
まだ、負けたわけじゃない(背中を押すキミの声があれば、私は)
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[mokuji]
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