22
「クロームっ!」
茫然と立ち尽くす彼女を突き飛ばしたのはツナだった
その直後、クロームが立っていた場所には刀が突き付けられていた
あのままあの場所にいたら……そう思うと背筋に冷たいものがはしる
戦いに詳しいわけではなかったが、それでも先程の攻撃には躊躇いが欠片もなかったことだけは理解できた
彼女は本気で、何の迷いもなく自分たちを殺そうとしたのだ
「亜希…どうして……」
「クローム!」
理解することなんて到底できるわけもなく、ただ茫然とするクローム
自分の知る亜希は―――あんな、何もない瞳で人を傷つけるようなことできるような子じゃなかった
柔らかく笑う、あまり目立ちたがらない大人しくて……優しい、自慢の妹なのに
「亜希…っ!」
嘘だと言って欲しかった
だけど、迫りくる白刃が…誰かに腕を引かれる感触が、これが全て現実だと告げていた
「ふふ…あなたが現れた時はどうなるかと思ったけど…全然たいしたことなかったねぇ」
完全に余裕を取り戻したミヨは嘲う
亜希の中で最後まで壊せなかったモノの登場にはさすがに焦りを隠せなかった
もしかしたら支配を解かれてしまうのではないかと思ったのだが……杞憂だったようだ
今も亜希は自分の命令に従って、ソレに刃を向けているのだから
「っ、あなた……!亜希になにしたのよ…!」
「大きな声あげないでよね…それに、私はなぁんにもしてないよ?むしろ私はお姉ちゃんを助けてあげたんだから!」
心外だと言わんばかりの表情を浮かべ、ミヨは彼女を見つめる
「お姉ちゃんをここまで追い詰めたのは、そこで倒れてるお兄ちゃんだよ?ボロボロになるまで追い詰めて追い詰めて……心を壊しちゃったんだよ、お姉ちゃんは」
ミヨは戦う術は持っていない
本当ならここにいる人間らに勝てるわけがないのだ
だがその不可能を可能にしてみせた唯一にて最大の理由をあげるとすれば、それは少女の口の上手さにあった
人を傷つける方法は、何も肉体的ダメージだけではない
どれだけ痛めつけられても耐えられる人間が短い言葉で崩れることだってある
ミヨという虚は、その"短い言葉"を察する洞察力が非常に高かった
どんな言葉を言えば相手の鎧が崩れるのか――どんな言葉を言えば相手が堕ちるのか、ミヨは本能の部分で感じ取り、それを口にする
「可哀相なお姉ちゃん…誰にも信じてもらえず、誰にも助けてもらえず……1人でずーっと泣いてたなんて」
今の亜希はもう―――何も、感じることはない
.
[ 87/122 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]