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「亜希…亜希なのか!?」
『たすけ……っ』
カタカタと、震えはどんどん大きくなっていく
今の彼女は人形などではなく、ちゃんと今ここで呼吸をしている、一人の人間だった
「な…!あの状態から自我を取り戻したっていうの…?」
信じられないとばかりに少女は呟く
それもそうだろう。少女は雁字搦めに彼女の心を縛り付けたのだから
ひび割れた心に甘い言葉を囁き、邪魔な感情は全て取っ払い従順な人形を作った
とてもただの人間が…それも絶望に足を1歩踏み入れていた人間が取り払えるわけがない
いや……支配するのに邪魔なものは全て壊したが、唯一どれだけ力を込めても壊れなかったものがあった
彼女を根底から支え、それがあるからこそ彼女を最後の最後まで保っていた、彼女を形成する上で欠かせない役割を果たしていた"それ"
厳重に鍵をかけ、決して壊れないように保管されていたそれを破壊することは、少女の能力を使っても不可能だった
だからこそ、それを壊すことは諦めて奥深くに眠らせて決して表にあがらないようにしたというのに……それが原因で、本当の意味で完全には彼女を支配できていなかったということか
「…もう、私はただの"虚"じゃない…」
"神"から授かったこの力は、戦闘能力ではない。他人の…人間の心の干渉だ
だからこそ、少女には強い駒が必要不可欠だった
戦闘能力が皆無の自分を守る、強くて従順な騎士が
その、強くて従順なはずの"騎士"が……自分の手から離れようとしている。その事実は、少女にとって耐えられるものではなかった
「ふ…ふざけるなぁ!!」
ギリ、と唇を噛みしめてミヨは怒りを露わにして開いた手のひらを強く握りしめた
『っああああぁぁああああ!!!』
途端、自我を取り戻そうとしていた亜希は悲痛な悲鳴をあげた
頭を押さえ、苦しげな叫び声をあげている
「亜希!?」
「許さない…私の支配から逃げ出すなんて、許さない……!!」
『あああぁぁぁっ!!』
苦しげな悲鳴をあげる亜希
それを止めさせそうと、今度こそ一護はミヨ目がけて飛びかかり、斬月を振り下ろした
ガキィィン!
「な…!」
「ふ…ふふふっ。残念でした死神!」
一護の刀を受け止め、背中にミヨを庇っているのは先程激痛に苦しんでいた亜希だった
その目に自我の光は見えず、また…あの、人形の瞳で一護を映し出していた
愕然とする一護、勝ち誇った表情を浮かべたミヨ、そして無表情の亜希―――
「―――亜希…?」
「え?」
だが、誰も気づいていない
隔離された公園の外――そこに傷ついた彼女を救える、少女が唯一壊せなかった"それ"がいることに
小さく口にした言葉は、"それ"が世界で一番大事だと思える片割れの名前だった
伸ばされたその小さな手(彼女の、精一杯の叫び)
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