Not Found | ナノ




55



「……そう、言ってくれればきっと何かが変わってたんだろうな」


そう言った一護の表情は少しだけ悲しそうで


「きっとお前が、そう訴えてくれれば、あんなことにはなってなかったと思う」


『それは…っ!』


反射的に何かを口に出そうとしたが、それは言葉にはならない

―――確かに私は、"諦めていた"

誰も分かってくれないから、違うと声をあげることを諦めた

私のこと信じてくれる人なんていないと、諦めた


「……いや、そんなこと俺が言えた義理じゃねーよな」


そう、すべては"仮定"の話でしかない

こうしていれば、あぁしていれば――…無限ともいえるその可能性を口にしても、むなしいだけだ


「なぁ、聞かせてくれ―――お前は、本当に井上を傷つけたのか?」


それはまるで、疑っているかのような言い方だった

―――だが、この一連の出来事が始まってから、初めて聞かれた"疑問の問いかけ"でもあった


『……っ、わたしは、私は何もやって、ない…!!』


言葉につまりながら、泣きそうになるのを必死にこらえながら、ずっと言いたかった言葉を口にする

勝手に諦め、勝手に絶望して、そして周りに迷惑をかけて

傷つくことを恐れ、人と対立することを厭い、ずっと逃げてきた

自分のこと見てくれている人にも気付かず、時が解決してくれることを心のどこかで期待していた愚かな自分


――だけど、私は変わらなければならない


立ち向かうことは酷く怖い

あの視線を真っ向から受けるのはとても恐ろしい

―――それでも


『、しんじて、ほしい…っ!』


黒崎くんは一歩、こちらに歩み寄ってくれた

手を、差し伸べてくれた

だから私も―――その手を、取る


「……あぁ。俺も、お前を信じたい」


少しだけ笑って、彼は伸ばした手を握ってくれた

.

[ 120/122 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -