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「……そう、言ってくれればきっと何かが変わってたんだろうな」
そう言った一護の表情は少しだけ悲しそうで
「きっとお前が、そう訴えてくれれば、あんなことにはなってなかったと思う」
『それは…っ!』
反射的に何かを口に出そうとしたが、それは言葉にはならない
―――確かに私は、"諦めていた"
誰も分かってくれないから、違うと声をあげることを諦めた
私のこと信じてくれる人なんていないと、諦めた
「……いや、そんなこと俺が言えた義理じゃねーよな」
そう、すべては"仮定"の話でしかない
こうしていれば、あぁしていれば――…無限ともいえるその可能性を口にしても、むなしいだけだ
「なぁ、聞かせてくれ―――お前は、本当に井上を傷つけたのか?」
それはまるで、疑っているかのような言い方だった
―――だが、この一連の出来事が始まってから、初めて聞かれた"疑問の問いかけ"でもあった
『……っ、わたしは、私は何もやって、ない…!!』
言葉につまりながら、泣きそうになるのを必死にこらえながら、ずっと言いたかった言葉を口にする
勝手に諦め、勝手に絶望して、そして周りに迷惑をかけて
傷つくことを恐れ、人と対立することを厭い、ずっと逃げてきた
自分のこと見てくれている人にも気付かず、時が解決してくれることを心のどこかで期待していた愚かな自分
――だけど、私は変わらなければならない
立ち向かうことは酷く怖い
あの視線を真っ向から受けるのはとても恐ろしい
―――それでも
『、しんじて、ほしい…っ!』
黒崎くんは一歩、こちらに歩み寄ってくれた
手を、差し伸べてくれた
だから私も―――その手を、取る
「……あぁ。俺も、お前を信じたい」
少しだけ笑って、彼は伸ばした手を握ってくれた
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