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「――店長、宜しいですか」
話が一段落した頃を見計らったのようにスルリと現れたのはテッサイだ
「ん?どうかしましたか?」
「黒崎さんと沢田さんがいらっしゃってますが……お通ししてもよろしいですか?」
くろさきさんと、さわださん
一瞬誰の事か分からずポカンとするも、すぐにこの間会ったばかりの黒崎くんと沢田くんのことだと思い出す
恐らく自分の様子を見に来てくれたのだろうと察するも……どんな顔して会っていいのか、全く分からない
だけど……いつまでも先延ばしにしていい問題でもない
「…だ、そうですけど…どうします?亜希サン」
どこか試すようだ、と感じるのは気のせいではないだろう
ここで会うのを拒否しても、きっと浦原さんは何も言わず、その通りにしてくれる
……だが、その瞬間この人の中で"私"という人間の価値はなくなるだろう
この人はきっと、簡単に人を切り捨てることができる
『……だ、大丈夫です』
少し声が裏返ってしまったが、ぎこちないだろう笑みを浮かべ、浦原を見つめる
怖くないわけじゃない
だが、もう逃げたくない
相変わらず何を考えているのか分からない浦原の目は、真っ直ぐ亜希を見据えている
『でも……、』
ずっと握られていた手を、自分から強く握り返す
『……お姉ちゃんも、いてくれると……嬉しい、なぁ……』
「…!もちろん、一緒にいるから」
その我がままに、クロームは一瞬目を瞬かせるもすぐに了承する
人はそれを甘いと言うかもしれないが、妹が大事な一歩を踏み出そうとしているのだ、姉として手助けしたい
傷つきながらも、前に進もうとしている彼女を手を握ることぐらいは、できるはずなのだから
「……だ、そうですので通してください。私は席を外しますので、若い人同士でどーぞ」
―――ま、及第点ですかネ
怯えながらも真っ直ぐ己を見つめてきた少女に、浦原はニッコリと笑みを浮かべたのだった
立ち上がる勇気(瞳に宿る色に、微笑む)
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