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――死神ではない

その穏やかではない言葉に目を見開いた一護に、浦原は慌てて補足する


「あぁ、変な意味じゃないっスからね!?重い病にかかって死神として働くことができなくなったから護廷十三隊から脱退したんですよ」


「ったく、誤解を招くような言い方をするでない。紛らわしい…」


夜一に重たい猫パンチを食らっている浦原

その姿はいつも通りといったもので、特に何かを隠している様子は見えなかった

だから一護もあっさり、そうだったのかと納得をしてしまった


――だが、虚言は口にしていないが全てを曝け出したわけでもない


一護らは知らない

ヰ猟災理が護廷十三隊から姿を消したのは、気が遠くなる程遠い昔だということを

"病"というのは建前で、その危険性から【脱退】扱いになったということを

その事実を知っているのは、隊長格でも極一部であるということも


「……さァて、今日はもう遅いことですし、もうそろそろ帰らないとご家族が心配するんじゃないですか?」


時計をチラリと見ながら言われた言葉は、話題転換にしては自然なものだった

時刻はもうじき日付が変わる頃で、未成年者がウロウロしてていい時間ではないのは確かだ

そして浦原の思惑通り、時計を見たツナが顔色を変える


「や、やば…!」


いくら連絡してあるとはいえ、ここまで遅いのは明らかにマズい

部屋であの家庭教師が銃を磨きながら待ち構えている姿が容易に想像でき、サーっと顔が青ざめる


「凪サンたちはこちらでお任せください。一晩くらいなら泊まって頂いても結構ですので」


「と、言うよりも離れぬだろうがな」


今あの姉妹を引き離すのは困難だと判断しての言葉だった

ツナの口ぶりから凪の家庭環境はうっすらと見えており、一晩くらい外泊しても何も言われないだろう

亜希に至っては行方不明期間が1日増えたところで何も問題はない

幸い明日は休日…ゆっくり骨を休めても誰も文句は言わないだろう


「じゃ、じゃあ宜しくお願いします!犬た…じゃなくて家族の人には俺から言っておきますから!それじゃ、失礼します!!」


バタバタバタと慌ただしく帰って行ったツナの後姿は必死感が滲み出ており、余程両親が怖い人なのだな、と一護は同情する

……実際に恐ろしいのは両親ではなく赤ん坊だとは、知る由もない

一護も続いて帰り、2人きり(正確には1人と1匹)になった居間で、浦原はぬるくなった茶を口にする


「……なァんで災理サンは亜希サンに手だしできたんでしょうね?"あそこ"にいるというのに」


「儂らの知らぬ術があるのじゃろう。あの娘に悪影響は今のところ見られぬが…気まぐれ故にいつ手を出してくるか分からぬ。しばらく様子を見る他なかろう」


協調性が皆無が故に隊長らの推薦を得られず隊長昇格試験を受けることはなかったものの、実力は誰もが認めざるを得なかった

気まぐれで自由であり、誰にも心を許さない男だったが、そのカリスマ性に若い死神は憧れ、一つの指標として目指した

――そして、それ故に………――


「……そうっスね」


小さな呟きに込められていた感情は、見えない




存在をされた存在
(闇の中で哂った)


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