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36 存在を消された存在
「――よォ、久しぶりだな亜希」
『……、サイリさん…?』
ゆっくりと目をあけると、久しぶりに見る人の顔が映る
サイリと名乗る彼は夢の中でだけ会える、外見年齢は今の私より少しだけ上の男の人だ
私が作り出した幻なのか、世界のどこかにいる人なのかは定かではない、不思議な人
「随分と寝てたな」
『そう、ですか…?でも確かに、何か疲れたかも…』
夢の中なのに疲れるなんて、何だか損してる気がする
それが表情に出てたのだろう、サイリさんが楽しげに笑う
「無理やり"借りた"んだ、体に負担が残ってもおかしくねぇ。しばらくは我慢するんだな」
『借りた…?私、サイリさんから何かお借りしてたっけ…?』
「あ―…まぁ気にしなくてもいいぞ。俺も"借りた"わけだし」
『??』
よく分からないことを言われ、首を傾げるも明確な答えをサイリさんが口にすることはない
「にしてもアレが今噂の死神代行、ねぇ…まぁ使えないことはねーが頼りないよなぁ…あんな雑魚にあっさりやられてるんじゃなー…」
『…今日のサイリさん、何か変』
「変じゃねーよ」
失礼な言葉を真正面から呟けるのは、夢の中だからというよりもサイリさんだから、なのかもしれない
普段絶対に言えないようなことも、サイリさんにだけは言える
お姉ちゃんと喧嘩したと大泣きし、慰めてもらったことも一度や二度の話ではない
なんでこんなに優しくしてくれるのか、一度聞いてみたことがあった
お父さんのようにただ厳しいのではなく、お母さんのようにただ束縛するのではなく、ただ優しく
だけど、その問いかけにサイリさんはただ悲しげに笑っただけで、何も答えてくれなかった
子供ながらに、聞いてほしくないことだったのだと分かり、それ以降この理由を聞いたことはない
『なんだか…すごく、疲れた……』
「そりゃそうだろーよ。気にせず寝とけ。―――もう、悪夢は終わったんだからな」
あの時と同じ、悲しそうな顔
サイリさん、と呼びたかったけど……急激に襲いかかった睡魔に抗うことはできず、視界がブラックアウトした
。
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