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34



「生身の人間の体で、斬魄刀持ってて…まるで人形みてぇだった。アイツの言うことだけ聞く、感情のない人形……姉すらも殺そうとしたけど、寸前で留まって……泣いた」


どれだけ自分が叫んでも届かなかった声が、凪のそれは届いた

嬉しいと思う反面、少しだけ悔しかったのもまた事実だった


「そっからアイツの様子がおかしくなって…ヤケクソっぽい感じで亜希から刀を奪ってそのまま刺したんだけど……、」


「そのわりには刺し傷は見当たりませんが?」


「……斬った側のほうが、傷を負ってた」


僅かに浦原の目が細められる

おそらくそれに気づいたのは自分だけだろう、小さな変化


「そっから…なんか人が変わったみてぇに、男みたいな口調で喋りだして……自分のこと、死神だって言った」


「死神、ですか?」


「あぁ。鬼道を使って俺の傷治してくれたんだ…死神なら使えて当然だろ、って…」


死神なら確かに使えて当たり前(もちろん一護は例外)だが、それは死神ではない亜希自身には当てはまるわけがない

今の彼女が虚を霊圧で上回る程の霊感を持っているようにはどうしても思えないし、何よりそれ程の力を持ちながら直前まで虚のいいように操られていたというのもまた不自然

命の危険に晒されたことで眠っていた能力が開花した、と言えばそれまでなのだが……


「………あの時の亜希は、"亜希"じゃなかった…」


ふいに、クロームが小さく呟く

一護と浦原の会話内容はあまり理解できなかったが、これだけは断言できた

"あの時の亜希"は、亜希では、ない

一人称が"俺"だったことや、粗野な動作とか、表面上の相違点もいくらでもあったが、何より決定的に違ったのは、自分を見るその瞳だった


「あの時私を見た瞳は、まるで赤の他人を見るような…いえ、"知ってる人"を見るような……」


真正面から目があった時、"違う"と確信した

双子の姉を見る目ではなく、あれは物語の登場人物を見るような…そんな、無機質な色があった

まったくの別人なのか、別人格なのか、それは定かではないが…亜希ではないという確信はある


「…ふむ、双子のお姉さんが言うのなら間違いないでしょう。となると残る疑問は、その時いた彼女は一体何だったのか、ということになります」


当然とも言える疑問を浦原は口にする

そもそも彼女には疑問が多過ぎた

2つのイロが混ざり合った不安定な霊圧に、生身の肉体で斬魄刀を扱った事実、そして自分を死神だと言った"彼女"

浦原ですら近づくまでその存在を認知させなかった結界、その結界からツナをはじきとばした力―――…どれも簡単には説明がつかないことばかりだ

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