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「どうして!?"歴史の本文"を研究すれば空白の100年に何が起こったか分かるんでしょ!?」
その言葉に、今度こそ博士は焦りを隠すことができなくなった
「お前っ!!…なぜそんな事まで!!さては"能力"で地下室を覗いたな!?」
そのロビンの"能力"というのはアリスには何のことなのかは分からない
彼女は自分のことを話すのをあまり好まず、アリスもまたペラペラと語れる素性ではない
なので実際のところアリスはロビンがどこに住んでいるのかすら知らなかった
「"歴史の本文"を解読しようとする行為は"犯罪"なんだと承知のハズだぞっ!!」
そう、それは世界が決めた法であり、常識ですらあった
当たり前すぎて、誰も疑問に思わない――いや、この歴史に100年もの空白期間があることを知らない人もいるかもしれない
その世界のタブーを、その"罪"を全て承知した上で、考古学者たちはこのオハラにいる
だが、その"罪"を何も知らない幼い少女にまで背負わせる必要は…ない
「――だけどみんな!夜遅くに地下室で"歴史の本文"の研究をしてるじゃないっ!アリスも一緒に!!」
だけど、そんな大人たちの想いとは裏腹に、ロビンは既に…踏み込んでしまっていた
アリスは僅かに唇をかみしめる
深夜の研究をしている時、時々どこからともなく視線を感じる時があったが……気のせいではなく、あれはロビンだったのか
周囲の人間の重苦しい空気に、ロビンは泣きそうになりながらも自身の想いを口にする
「だって堂々と行ったってお部屋に入れてくれないじゃない…っ!だから…ちゃんと"考古学者"になれたら、みんなの研究の仲間に入れて貰えると思って、私頑張ったのに!!アリスは良くて何で私はダメなの!?」
最後にロビンが口にした疑問
その質問にだけは、アリスは自信を持って答えることができた
『私がクローバー博士たちと一緒に研究をしてる理由……それは、私が"Dの意志"を……いえ、"ウィザー"を継ぐ人間だから』
「Dの?ウィザー…??一体何なの!?」
『……ロビン、』
混乱しているロビンの肩に手をおき、言い聞かせるようにクローバー博士は真剣な口調で言う
「確かに…学者と呼ばれる程の知識をお前は身につけた…だが、ロビン。お前はまだ子供だ!!それこそアリスより2つも歳が少ない!!」
ロビンの瞳に涙が光る
「いい機会だ、教えておくが……歴史上古代文字の"解読"にまでこぎつけたのは、唯一この"オハラ"だけだ。踏み込む所まで踏み込んだ我々はもう戻れない。"全知の樹"に誓え…!今後また地下室に近づいたら、お前の研究所と図書館への出入りを禁ずる!!いいな!!」
その気迫に押されるように、ロビンは泣きながら図書館から出ていく
『ロビン…!』
唯一の友達を追いかけるか否か迷ったが、アリスは覚悟を決めて追いかけるようにして外に飛び出した
「アリス!!」
クローバー博士たちの呼びとめる声も無視する
――これが、約1年ぶりの外出だった
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