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次から次へと溢れてくる涙と一緒に、全てを吐きだした
9歳の少女に泣きながら説明されてもよく理解なんてできるわけないのに、老人は口を挟むことなく全てを聞き届けた
「……そうか…ユリアが…」
母の姿を思い出しているのか、じっと目をつぶったまま黙り込んだ老人
「ユリアと、というよりもアレの母親と…つまりお前の祖母と交流が深くてな。今のお前ぐらいの歳の頃に会ったっきりだったが…」
新聞をたたんでいた老人は、そこで何かに気づいたのかそうだ、と声を出した
「そういえば自己紹介がまだだったな。わしはクローバー。皆からはクローバー博士と呼ばれておる」
『…博士…?』
「ここオハラの考古学者だ」
『オハラ……そういえば、お母さんが少し話してくれた……"空白の100年"を調べている、学者の集まりだって…』
「…!ユリアはそんなことまでお前に話していたのか」
『…いつか、必ず1人で生きていかなければならないからって…色々なことを教えてもらった』
1人でも生きていけるように、と母はよく言っていた
自分達の血筋も、力の使い方も、歴史も、戦い方も……あらゆることを母は教えてくれた
今思えば、そう遠くない未来に自分が殺されることを感じていたのかもしれない
「……ジュリアには…お前の祖母には多くのことを教わった礼がある。傷が治り、一人でまた海に出れるようになるまではわしらが責任を持ってお前を保護しよう」
『…ありがとう、ございます』
頭を下げ、これからのことの礼を述べる
これで傷が治るまでの間の住処が保証された
早く傷を治し、広い海へと出て強くなりたい
母を殺した、あいつらをこの手で殺すために―――
一応は賞金首となる予定であるアリスを街で生活させるのは危険だということで、アリスはこの研究員たちが使っている仮眠室(兼息抜き場所)を生活の拠点とすることとなった
手配書はすぐに回されることとなるだろう
恐らく表沙汰にはされないだろうがあのウィザー・D・ユリアの娘で、且つ大量殺人者だ。すぐに発行されるのは目に見えている
『……あ』
「どうしたんだ?」
そう言えば、といった調子で声を出せばクローバー博士が首を傾げる
『…あの子は…気を失う前、黒髪の女の子に会って…』
「あぁ、ロビンか。お前をここまで連れてきてくれた恩人だぞ。容態が落ち着いたら紹介しよう」
『ロビン、か…』
小さく、その名前を呟いた
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