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あれからまた気を失い、気づけばアリスは清潔なベットの上で寝かされていた
丁寧に包帯が巻かれており、全身真っ白な状態になっている
『…………』
ゆっくりと体を起こし、周りを見渡す
丁寧に治療されているのだから少なくとも敵に捕まったわけではないだろう
周囲は見渡す限り本で埋め尽くされており、このベットは恐らく仮眠用に使われていたものだと推測できる
しばらくボーっと本のタイトルを眺めていると、扉が開けられる音がして視線がそちらに移る
「おぉ、起きておったか」
『……』
現れたのは一人の老人だ
特徴的な髪形とひげを持つ、ただの老人
特に警戒する様子もなくこちらを見た後、ベットの傍に置いてあった椅子に腰かけた
『……』
「そう警戒するな。わしはお前の敵ではない」
毛を逆立てた猫のように無言で威嚇するアリスに構うことなく、老人は新聞を差し出した
その差し出された物に触れることを一瞬躊躇するが、その新聞の一面に載っていた文字を見て、ひったくるようにして奪い取り新聞に目を通す
≪―――未明、西の海に位置する人口100人程度の小さな島、"カディア"が一夜にして滅ぼされた。その惨状を引き出したのは革命軍に所属する"鮮血のユリア"ことウィザー・D・ユリアと幼い少女の所業だと判明。"鮮血のユリア"は本部の中将が仕留めたが、幼い少女はその場にいた島民と海兵合わせて推測300人を殺害した後逃亡。現在海軍は全力を挙げてその消息を追っている。目撃情報は海軍まで。なお、今回の残虐な一件を考慮し、本部は幼い少女"アリス"に賞金を貸すことを決定。手配書は後日配布されるであろう―――≫
手が震える
何度目を通しても、書いてあることが変わるわけではない
「その新聞に書かれているアリスという娘は、お前のことだろう」
『……!!』
その確信を持った言葉に、反射的にアリスはこの場から逃げ出そうと体に力を込めるが、怪我の痛みに耐えきれず力が抜けて立ちあがることができない
それでもこの場から何とか逃げようと四苦八苦していると、慌てたように老人が止めた
「待て待て!何もわしはお前を通報しようなど思っておらん!確認したかっただけだ!」
だから落ちつけ、と肩をつかまれ一瞬抵抗する力が抜ける
抵抗は止めたが、それでも警戒をなくすことなく…アリスは初めて老人の瞳を真正面から見つめた
『……何で…』
何故、この人は私を突き出さないのだろうか?
わざわざ自分のテリトリーに招き入れ、丁寧に治療まで施して
新聞に書かれていることが事実なら、もうとっくにこの人は殺されていただろうに、何故……
「…わしはユリアと…いや、お前の母親と僅かながら交流があったのだ。だからあの子が…ユリアが世間が思うような人間じゃないことはちゃんと分かっておる。分かるか?」
瞳をわずかに細め、老人はゆっくりとその言葉を口にした
「わしは、お前の敵ではない。味方だ」
――その言葉に、知らず知らずのうちに涙がこぼれた
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