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その様子を見てられなくなったのか、チョッパーは泣きながら彼のもとへと向かおうとしていた
「ウソップ―――!!」
『…ダメよ、チョッパー』
チョッパーの首にはいつの間にか鞘にいれられた刀が出されており、いつもの優しげな笑みを消したアリスが制止していた
だが完全に頭に血ののぼっている状態のチョッパーはそれで大人しく引き下がることはしない
「……!!何でだよ!ただでさえボロボロの体なのに、あんな目にあって…!!」
「おいチョッパー!ケンカや試合じゃねェんだ!!」
サンジも一緒に止めようとするが、チョッパーの耳に言葉が入っていかない
「だから何だ!!俺は医者だ!!治療くらいさせろォ!!」
無理やりでも彼のもとへ行くと意気込むチョッパーを、サンジが壁に押し付けて低い声色で呟く
「"決闘"に敗けて、その上…同情された男が、どれだけ惨めな気持ちになるか考えろ!!」
『優しさは…時に凶器にさえなるわ。彼らはこうなることは全て覚悟した上で、この決闘を挑んだんでしょう?』
刀を元ある場所へと戻しながら、いつもの笑みを浮かべてアリスは諭すように言う
不用意な優しさは敗者をただ苦しめるだけだ
医者として彼の命は救えても、彼の"誇り"は傷付けてしまう
「……重い…!!」
船の近くへと戻ってきたルフィの口から零れた言葉に、ゾロが口を開く
「――それが"船長"だろ…!!」
これがこの海賊団が下した決断なのだ
「迷うな。お前がフラフラしてやがったら、俺達は誰を信じりゃいいんだよ!!」
言葉の途中でチョッパーがこっそり船を降りていくのが見えたが、アリスもサンジも今度は何も言わない
大量の医薬品を彼の傍に置いて走り去っていくチョッパー
「船を空け渡そう。俺達はもう…この船には戻れねェから」
ウソップとルフィとチョッパーの瞳から流れているのは、辛い涙だった
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