紅の魔女 | ナノ




37


その様子を見てられなくなったのか、チョッパーは泣きながら彼のもとへと向かおうとしていた


「ウソップ―――!!」


『…ダメよ、チョッパー』


チョッパーの首にはいつの間にか鞘にいれられた刀が出されており、いつもの優しげな笑みを消したアリスが制止していた

だが完全に頭に血ののぼっている状態のチョッパーはそれで大人しく引き下がることはしない


「……!!何でだよ!ただでさえボロボロの体なのに、あんな目にあって…!!」


「おいチョッパー!ケンカや試合じゃねェんだ!!」


サンジも一緒に止めようとするが、チョッパーの耳に言葉が入っていかない


「だから何だ!!俺は医者だ!!治療くらいさせろォ!!」


無理やりでも彼のもとへ行くと意気込むチョッパーを、サンジが壁に押し付けて低い声色で呟く


「"決闘"に敗けて、その上…同情された男が、どれだけ惨めな気持ちになるか考えろ!!」


『優しさは…時に凶器にさえなるわ。彼らはこうなることは全て覚悟した上で、この決闘を挑んだんでしょう?』


刀を元ある場所へと戻しながら、いつもの笑みを浮かべてアリスは諭すように言う

不用意な優しさは敗者をただ苦しめるだけだ

医者として彼の命は救えても、彼の"誇り"は傷付けてしまう


「……重い…!!」


船の近くへと戻ってきたルフィの口から零れた言葉に、ゾロが口を開く


「――それが"船長"だろ…!!」


これがこの海賊団が下した決断なのだ


「迷うな。お前がフラフラしてやがったら、俺達は誰を信じりゃいいんだよ!!」


言葉の途中でチョッパーがこっそり船を降りていくのが見えたが、アリスもサンジも今度は何も言わない

大量の医薬品を彼の傍に置いて走り去っていくチョッパー


「船を空け渡そう。俺達はもう…この船には戻れねェから」


ウソップとルフィとチョッパーの瞳から流れているのは、辛い涙だった

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